女神の落としモノ
『とお、かあか!』
突然、子供の声が聞こえた。
そして、視界が一気にはれる。
『ふふっ、まだちゃんと言えないのね』
『母さん、ベルはこれから私に似て立派な領主になるさ』
青い髪と瞳………
あの子供って………
「小さい時の私だ………」
ベルは驚いたようにその光景を見つめている。
「どうなってやがる……」
「シド!」
いったいここはどこなんだろう……
宙に浮き、まるで夢のようにおぼろげな光景を見下ろす。
「あれは……シリー………」
バルイットさんは驚いたように光景の中の女性を見つめた。
「シリー……私の母さんだ。私が生まれてすぐに死んでしまったんだ…。そうか、あの人が私の……」
ベルは目に焼き付けるようにその人を見つめた。
「シリーを失って、私は全てを失ってしまったような気がしていた」
バルイットさんがポツリと呟く。
ベルはそんなバルイットさんに向き合って静かに言葉に耳を傾けていた。
「私の世界そのものだった彼女を失って、私は生きる気力も、希望も見いだせなかった。領主という立場だけが私には残り、役目を果たす事だけがこの悲しみを忘れられたのだ」
忘れる為に、必死だったんだ……
でなきゃ、心が壊れてしまいそうだったから……
「父さん………」
「だが、私は忘れていた。お前という宝が、私の傍にあったのに……。シリーと私の愛の形が………」
バルイットさんは泣いていた。
ベルはそんなバルイットさんの肩に手を置き、優しく笑う。
ベル、頑張って……
気持ちを込めて見つめると、ベルは強く頷いて笑った。