女神の落としモノ
「お前………怒ってねぇのかよ。俺、結構キツかったろ」
不思議そうに私を見るシドに、私は笑いかけた。
「怒られるのは私の方でしょ?私は怒ったりしないよ」
「そうかよ………」
私達は手を繋いだまま、夜の町の中で立ち尽くす。
しばらく、沈黙が続いた。
それを先に破ったのは、シドだった。
「俺は、アイスレートの貧困層の育ちだったんだよ」
アイスレート………
確か、イオンが言ってた5つの国の一つだったかな。
「アイスレートは、一年中雪に降られ、凍えた大地だ。俺達貧困層には、それを凌ぐ術がねぇからな、次々に死人が出るほどだった」
「死人が………」
私のいた世界にも、私が知らないだけで他の国ではあった事なのも知れない。
私の国は、日本は、平和すぎるから……
「当時のアイスレートの王族は裕福層へのご機嫌とりに必死で、貧困層への援助もなかった。そもそも、俺達の町が貧困層になったのは、王族の勝手な改革が失敗したせいだ。その責任すらも放棄しやがった」
「改革って?」
「………人体兵器改革だ」
人体兵器……改革………?
それって、その名のとおり、人を兵器にするって事?
「俺は、いや、今海賊船に乗ってる奴等の殆どがその研究所が建てられた町に住んでた。身寄りのない子どもは皆そこに集められて実験台にされて……あいつらは、命を何とも思ってねぇんだ」
「な、なにそれ……」
そんな事が、本当に行われてるの?
実験台にされるなんて…………
簡単に理解したいだなんて、私………
「私、最低だね……。シドの事も、皆の辛さも、こんなに深いものだって思ってなかった」
ーポタッ
涙が溢れた。
なんで、そんな酷いことを………
小さくて無力で、守られるべき存在の子どもに、傷を負わせて…
そんなの、許せないよ………