エターナル・フロンティア~後編~
しかしリオルの短い前足での攻撃ではユアンの身体を傷付けるどころか、ユアンに攻撃が届いていない。
それでも何とかして一撃を与えたいと考えているのだろう懸命に前足を動かすが、幼いリオルが前足を動かしている仕草は彼の感情に反して愛らしいもので、女性が現在のリオルの姿を目撃したら「可愛い」と黄色い悲鳴を上げ、写真撮影をしているに違いない。
彼に余裕があるのなら、リオルの姿を見ているのも一興――と思い観察していたが、レナと会う約束があるのでリオルに構っている暇はない。彼は器用に攻撃を避けるとリオルの首筋を掴むと、邪魔にならないようにと部屋の隅へ置きに行く。
邪険に扱われたとリオルは憤慨しユアンに飛び掛ろうとしたが、苦しそうに呻く主人の声音を聞いた時、彼の動きが止まった。
その呻き声で目を覚ましたことに気付いたユアンはソラが横たわっているベッドの端に腰を下ろすと、彼の顔に視線を向けると気分がいいかどうか尋ねる。尋ねる以前から彼は悪夢を見たと予想していたユアンだったが、ソラからの言葉が彼の予想が正しいと証明する。
「どのような?」
「父が殺された日の出来事」
「確か、同僚に」
「……はい」
ソラの育ての親が殺害された件は、ユアンは義父から聞いているのである程度は理解している。そしてソラを自分達の手元に戻す為に、同僚だったソラの育ての親を殺したのかという点も、ユアンは科学者(カイトス)という立場から言わせればプロジェクトの参加者の行動の心理を読めた。
どのような研究や実験であれ、それには莫大な資金が投入されている。ましてやヨシュアのクローンを生み出すという一大プロジェクト。莫大という言葉で表現できないほどの資金が投入され、プロジェクトが遂行されていただろう。
そして不可能とされていたクローンが見事に誕生し、人間の手で人間が生み出すことができると証明された矢先、身内が裏切った。
プロジェクトの成功の証が存在しないのなら、投入した資金が無駄になってしまう。だから、どのような方法を用いても取り戻さないといけない。たとえ、同僚を殺害してでも――結果、ソラの育ての親を殺害した物は、見事にプロジェクトの証を取り戻すことができた。
しかし結果として、ソラはプロジェクトの参加者ではないユアンのもとにいて、主要メンバーが次々に死んでいる。これも神の身業に近付こうとした人間に、神が裁きを与えたのか。
神の存在を信じていないユアンだが、参加者が次々と死んでいくと本当に神が存在し、彼等に裁きを与えているのではないかと思ってしまうが、非現実的な内容に彼は苦笑する。