エターナル・フロンティア~後編~

「ユア……いや、ラドック博士に誘われた。というより、自分の警護をして欲しいと言っていた」

「警護って、危ないの?」

「これから行なわれる内容を考えれば、危ない場所じゃない。だけど、ラドック博士は周囲に敵が多い。というか、敵を作るのが上手すぎる。彼は天才で他の人と違うから、仕方がないのか。まあ、オレに頼んだのは万が一ということらしいから、イリアは心配しなくていい」

「うん。信じている」

「でも、博士は強いよ」

「そうなの?」

「武器の扱いにも長けている」

「ラドック博士って、苦手なことがあるのかしら。ソラの話を聞いていると、完璧な人のような……」

「博士もオレ達と同じ……だと思う。生身の生き物、苦手分野がないというのは有り得ないし」

 ソラは、ユアンの闇の部分を隠す。ユアンの周囲に敵が多いのは彼の言動が大きく影響しており、尚且つそれを自覚している上で相手を挑発するのだから質が悪い。その反面、それを行うに相応しい能力を持っているので、周囲を軽くあしらうことができるのだとソラは考える。

 そして周囲に敵が多いといっても、このような場所で争いに発展するとはないとソラは思いたい。世の中の渡り方は熟知しているので、ユアンから攻撃を仕掛けることはないだろう。問題はユアンにいい印象を抱いていない者で、何処から攻撃が仕掛けられるかわからない。

 できるものなら何事もなく無事に終了して欲しいものだが、運命はどのような形で変化するかわからない。また、どのような切っ掛けで対立構図を生み出すかわかったものではない。ユアンは気に入らない相手に対しては容赦なく振る舞い、徹底的に追い込む悪い癖を持っている。

 その時は――

 しかしソラは自身の力を使用することを拒んでおり、力とどのように向き合えばいいかいまだにわからないでいる。稀に見る力を持つヨシュアのクローンであるソラ。必然的に彼が体内に秘めている力は強大で、感情の起伏次第で相手を殺傷し命さえ奪うことも可能だ。

 現に、その力でユアンの義父の命を奪っている。あれは動揺を誘発されての結果だが、自分の手で殺害しているという消せない現実であり、今でもソラの心に深い傷を残している。それは、一種のトラウマか。思い出す度に彼の心を刺激し、決して忘れることができない。
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