エターナル・フロンティア~後編~

 上着は袖口を捲くり長さを調節すればいいが、ズボンは腰回りが予想以上に緩くベルトをきつく締めないと落下してしまう。ユアンはソラの体調面を熟知したいたが、まさかこれほど細い体型の持ち主ということまでは知らなかったらしく、もっと太った方がいいと心配する。

 ソラは食が細く、殆んど食べていない。食べ物が身体に合わないというわけではないが、胃が受け付けないのだ。だからといって食べていないというわけではないが、この体型では何を言っても言い訳になってしまう。見兼ねたユアンが栄養価の高い食事を食べるかどうか尋ねるが、ソラは首を縦に振らない。

 今、何も胃袋に入れたくないというのが本音。それに何か入れたら、吐き出してしまいそうだった。自分の誕生の秘密に、それに伴いユアンの義父を殺害してしまった。精神的に弱っているソラに訪れた衝撃的な出来事の数々に、精神だけではなく肉体面も弱っていた。

 流石に「いらない」と言っている相手に、強引に口を開かせて食べ物を食べさせるわけにもいかない。それにユアンも、肉体と精神面の両方が弱っている時に食べ物を食べたら逆に身体に悪いと知っているので、それ以上「食べた方がいい」と、言うことはしなかった。

「歩けるか?」

「歩き難いです」

「我慢だ」

「ところで、オレが行って大丈夫なのですか?」

「どういう意味だ」

「オレは、貴方達にとって……」

「それは気にしなくてもいい。今、君をどうこうしていいのは僕だけだ。周囲には何も言わせない」

 この言葉は、ユアンの現在の地位を表現するには適切な言葉ではない。彼は自分にとって邪魔な存在を次々と排除し、今の地位を確立したといってもいい。勿論、馬鹿や無能ではなく優秀という点も関係しているだろうが、ユアンのやり方に常識や人道的概念は通じない。

「リオルには手を出さないで下さい」

「犬は興味ない」

「それならいいですが」

「やけにその犬に固執するな」

 ソラにとってリオルは、普通の犬と何処か違っていた。自分に懐いてくるので可愛らしいという感情も関係しているが、孤独を癒してくれる大事な存在でもあった。だからといって自分の為に尽くしてくれる人物を忘れているわけではないが、やはり常に側にいてくれる方に目が行ってしまう。
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