エターナル・フロンティア~後編~
使用したままのマグカップをキッチンに置いておくと後で母親の小言が煩いので、きちんと洗い定位置に戻しておく。
その後、特に予定がないので何となくテレビを点けザッピングを行うが、今の時間興味が引く番組は放映されていないので、すぐにテレビを消してしまう。
母親に留守番を言い付かっているわけではないので、勝手に外に出ても文句は言われない。
それならショッピングに出掛けるのもひとつの手だが、いかんせんいまだに金銭面が裕福になったわけではない。
しかし何かを買わなくても、品物を見て回るだけでも十分楽しいものだ。
イリアは自室に戻り出掛ける準備を行うが、特に何か特定の物を持っていくわけではないので、すぐに準備が終了する。
個人的に遠出したいが、金銭面を考えれば近場の方がいい。
幸い、最寄りの駅周辺には多くの品物を揃えている店が存在するので、それなりに楽しめる。
自宅の鍵を掛けショッピングに向かおうとした時、買い物を終え戻って来た母親ヘレンと鉢合わせになってしまう。
予想外の母親の登場にイリアは反射的に気まずい表情を浮かべると、ヘレンはいい表情をせず、今から何処へ行くのかと感情が籠っていない声音で問う。
「お、お買い物」
「何処へ?」
「近所に……」
「遅くなっちゃ駄目よ」
「……うん」
血の繋がった母親だというのに、何処かたどたどしい振る舞いになってしまう。
アカデミーを卒業した後から一段と厳しさが増し、今は別人といっていい雰囲気が漂う。
娘の将来に期待してか、それとも変な虫がつくのを恐れているのか――言葉の端々に、厳しさが見え隠れする。
「一人?」
「今、すぐに誘える人は……」
「それならいいわ」
やはり母親は、誰かと一緒に行くことを恐れていた。
もし今日、ソラと一緒に何処かに出掛けていたと思うと、小言どころでは済まされない。
父親ほどではないが母親もソラのことを嫌っており、今も連絡を取っていることを快く思っていない。
ましてや、付き合っていると知ったら――
両親の耳に入ったら、有無を言わさず別れさせられるだろう。
相手が能力者という理由で一方的に批判し、汚い言葉で罵るかもしれない。
そして自分達が納得する相手と強制的にくっ付けさせられ、愛情が湧かない相手を結婚させられるかもしれない現実に、イリアの心が曇る。