Sugar&Milk
「瑛太くんのことは大好き」
「だったら別れない! 俺は朱里さんしか目に入らないよ!」
「何日も連絡がないだけで落ち込んで、不安でどうにかなりそうだった。こんな気持ちは辛い……」
朱里さんがカバンの中から何かを取り出した。俺の前に差し出したのは鍵だった。
「部屋の鍵も返す」
本当に別れを突き付けられた。思わず朱里さんを抱き締めた。すると腕の中で「私の勝手でごめんね」と呟く。
「朱里さんの中ではもう決まったことなの?」
「うん」
「俺のことまだ好きでいてくれるのに?」
「瑛太くんを守れるほど私もまだ大人じゃないの」
どういう意味だと朱里さんの顔を覗き込むと、話すことが辛いかのようにぎゅっと目を閉じていた。
「瑛太くんとの未来が不安」
吐き出された本音に我慢していた涙が溢れた。
「一緒にいたいって思いだけじゃ続かないことがこの先にも出てくる。私が人生の節目で何かを決断するタイミングは瑛太くんと同じとは限らない」
何を不安に思うのかが分かってしまったから、俺は「全部合わせる」と言って朱里さんの頭にキスをした。大好きの気持ちをぶつけるかのように。
「合わせてほしくない……そういうことを今判断してほしくないから別れた方がいいんだよ」
まだ俺のことを好きでいてくれるのに、朱里さんは結論を出してしまった。
朱里さんの人生に起こることの全てに立ち会って、そばで支えてあげたい。けれど俺はまだ子供で、朱里さんと一緒に生きていくのに値するような責任能力がない。生きてきた時間や経験は絶対に朱里さんには追い付けない。今の俺では。
「納得できないけど……朱里さんは俺がそばにいることが負担になるんだね」
自然と声が震えた。それでもきちんと聞こえたのか小さく頷いた。