Sugar&Milk
「何があってもずっと朱里さんが好き。でも朱里さんが別れたいなら俺は受け入れます」
最後に朱里さんの柔らかい肌を感じてから腕を離す。
「ごめんなさい……」
「謝らないで……」
俺のことを考えてくれての決断だっていうのは伝わったから。
朱里さんの手に握られたままの俺の部屋の鍵を受け取った。
「俺がもっと大人になったらもう一度好きだって言いに来る」
「え?」
「将来不安に思わないような大人になる。何かを決断するタイミングで一緒に決められるくらい経験を積む」
悪あがきする俺に呆れて言葉が出ないのだろう。でも俺はみっともなく朱里さんに縋る。
「成長して迎えに来る。だからその時は俺にもう一度朱里さんと付き合うチャンスをください」
「…………」
何と返せばいいか迷って言葉にならないのだろう。この期に及んで俺は朱里さんの人生から消えたくないと思っている。
「俺はずっと朱里さんが好きだよ」
「っ……」
「待っててとは言わない。お揃いで買った指輪も捨ててくれて構わない。でも朱里さんを好きでいることは許してほしい」
離れても、思い出の品を捨ててと言っても、朱里さんを好きな気持ちは捨てられない。
「この気持ちは何年たっても変わらないって確信してる」
返事を一生懸命考えているのだろう朱里さんの顔はもう何度も見てきた。思えば俺は出会いから朱里さんを困らせてばかりだった。
「何も言わなくていいよ。朱里さんは日常に戻るだけでいい」
そうしてできれば子供な俺を忘れてほしい。
「俺の恋人になってくれてありがとうございました」
涙でぐちゃぐちゃな顔でも精いっぱいの笑顔を作った。
早足で朱里さんから離れて駅の方に足を動かす。一度も振り返ることはできなかった。駅までの道は涙でぼやけて見える。
さようなら朱里さん。
次に会うときは今この瞬間も上書きしてしまうくらい朱里さんに釣り合う大人になっているから。