Sugar&Milk

離れたところから店内を眺めてみたけれど、以前から横にあった定食屋を潰して壁をぶち抜いたのか中はかなり広くなっていた。テーブルやイスの配置が変わり、壁紙や照明の色も違っている。店員のエプロンは黒からブラウンに変わり、観葉植物が増えている。全く別のお店になってしまったんだと嫌でも理解させられた。

賑わう店内で数人の男性店員を見かけた。その中の一人が瑛太くんに似ているような気がして、未練たらしい自分が嫌になり会社に足を向けた。
お店の変化はいいきっかけだ。私はもう忘れるべきなんだ。










壁掛け時計が定時を告げるアラームを鳴らす。もう少し残って仕事をしていこうかと思ったときLINEの通知音が鳴った。デスクに置いたスマートフォンの画面を見て驚いた。
『中山瑛太 新着メッセージ』の文字に勢いよくスマートフォンを持ち上げる。別れてから連絡を一切取らなかったし、その間に機種変更もしてしまったからトークの履歴は見ることもできなかった。3年ぶりの連絡に動揺せずにはいられない。

「橘さん? 大丈夫?」

向かいのデスクの武藤くんが驚いた顔で私を見つめる。落ち着かない様子の私が不審なのだろう。

「うん……大丈夫……」

横に座る事務の子も私の様子を窺う。

「ちょっとトイレ……」

いちいち言わなくてもいいことを口にしてスマートフォンを持ってフロアから出た。個人ロッカーのある小部屋に入ると画面をタップする。

『お久しぶりです。近いうちに会えませんか?』

短いメッセージでも何度も読み返して手が震えてしまう。敬語が心の距離を感じるけれど、私に会いたいと思ってくれているんだよね?

『お久しぶりです。夜はいつでも大丈夫なので瑛太くんの都合のいい時間に合わせます』

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