Sugar&Milk
「朱里さん」
名を呼ばれて胸がぎゅっと締めつけられたように苦しくなる。懐かしい声に不覚にも涙が出そうになる。私はこんなにも瑛太くんを恋しがっていたんだと実感する。
本当に迎えに来てくれた? それとも時間をおいて私への気持ちにけりがついてさよならを言いに来た?
「元気だった?」
当たり障りのない挨拶に私は言葉が出なくてただ頷く。私服かカフェの制服姿しか見たことがなかったけれど、今はスーツを着ている。
「スーツ……似合ってる……」
「大人っぽく見えます?」
私は目を潤ませながら大きく頷いた。すると瑛太くんは照れたような顔をする。
「これ、お土産」
手に持った紙袋を私に差し出すから驚いた。その紙袋に印字されたロゴは会社の最寄り駅にリニューアルオープンしたカフェのものだ。
「ありがとう……」
やっと絞り出した声に瑛太くんはほっとしたような顔をする。
袋の中身はアイスコーヒーとアイスティーだった。
「あの……部屋で飲む?」
遠慮がちに言ってみたけれど瑛太くんは首を振る。
「遅い時間だし、会いたいって言ったの俺だから。ここでいい」
「そっか……」
付き合っていた頃なら部屋に入りたいと甘えてきたのに、と懐かしんだ。
「それ、俺の店のコーヒーと紅茶」
「え?」
「俺の店っていってもまだ副店長なんだけど」
「これってあのカフェのだよね?」
「そう。俺ね、あのカフェを運営する会社にそのまま正社員として入社したんだ」
私は頷く。そのことは山本伝に相沢さんから聞いていた。
「今までは遠い店舗勤務だったんだけど、リニューアルに伴ってあそこの副店長になった」
「え!?」
では瑛太くんに似ている店員がいると思ったのは瑛太くん本人だったのか。
「辞令が出たときは運命かも、なんて思っちゃった」