Sugar&Milk
「はい、どうぞ!」
私の問いに中山くんはニコニコと答えた。
4人座れるテーブルは1つしか空いていなかった。そこは店員がいるカウンターの斜め前で中山くんから丸見えの席だ。カウンターを背にした席に荷物を置くと、ちょうど相手の社員も店内に入ってきた。名刺交換を済ませ、注文をしに中山くんの前に行く。取引先の社員と山本がそれぞれ注文をし、最後に私がレジの前に立つと「ホットの紅茶でよろしいですか?」と聞かれた。
「あ、はい……」
注文をする前に言い当てられて面食らう。やっぱり中山くんは私が頼むものをちゃんと覚えているらしい。
「280円でございます」
中山くんは横にいる女性店員に「お次はホットティーで砂糖とミルクです」と伝えた。私が何も言わなくてもカップの横にスティックシュガーとミルクが添えられた。
「ごゆっくりどうぞ」
中山くんの満面の笑みに仕事中なのも忘れて笑い返してしまいそうだった。
打ち合わせ中も中山くんの接客時の声がよく聞こえた。「いらっしゃいませ」も「ありがとうございました」の声も適度な声量ではっきり聞こえる。
落ち着かないまま1時間以上の打ち合わせを終え、カップを返却口に下げた。すると女性店員が「恐れ入ります」と声をかけると中山くんも「恐れ入ります、ありがとうございました」と復唱した。お店を出る前に目が合うと、私に向かって目立たないよう小さく手を振った。
会社に戻る途中で山本は「橘の彼氏、やっぱりいたじゃん」と面白そうに話し始める。
「何で分かったの?」
すぐに取引先の社員が来たから店内にいるなんて言う暇はなかったのに。