Sugar&Milk
「大人の恋愛は彼女を夜の道で抱き締めるんでしょ?」
「そんなのどこで覚えたの?」
驚いて見上げると中山くんの顔が目の前にあった。その彼は顔が赤い。
「恋愛ドラマ」
照れながらそう言っても目はとても真剣だ。ゆっくり近づいてくる顔に困惑して目を閉じた。唇が重なって体がぴくりと揺れる。触れ合っている時間が数分にも感じられるほど、角度を変えて唇が擦れる。そうして名残惜しそうに離れていく。
中山くんの大胆さには驚いた。今までで一番の衝撃だった。
「中山くん……」
「朱里さんに子供だと思われてもいいですけど、子供なりにワガママ言わせてもらいます。キスしたくなったらしますから」
「なっ!」
今の私はきっと中山くん以上に顔が赤くなっただろう。最近の若者は草食系なんて言われているのに、中山くんは草食とは程遠いではないか。
「俺、朱里さんの横にいても不自然じゃない大人の男になれるよう頑張るから……」
ぎゅうっと強く抱き締められる。まさか自分が公衆の面前で抱き合ってキスをするカップルになるとは思わなかった。
「分かった……中山くん、分かったから……」
やんわりと肩を押すと中山くんの体が離れた。
「瑛太って呼んでください。苗字呼びはまだ距離が遠いです」
「うん……ごめんね瑛太くん」
私が名を呼ぶと嬉しそうに笑う。彼はいつの間にか自然と『朱里さん』と呼んでくれていたのに、私は一歩引いていた。これから下の名前で呼ぶことは距離が近づく気がして嬉しかった。
「俺の誕生日は一緒に居てください」
「うん……お願いします」
頼まれたのは私なのに、思わずこちらが願ってしまう。瑛太くんともっと一緒に居たいって。
戸惑うくらい距離を詰める彼にいつの間にか夢中だ。自分を求めてくれる男の子を意識するなと言う方が難しい。
それからは私が改札を越えるまで指を絡ませて歩いた。何も言わず自然とお互いが指を求めているように。