Sugar&Milk

「なんで他人のケーキ笑顔で渡してるんだろう……」

カウンターで今日何組目か分からないほど予約のクリスマスケーキを渡した後、相沢が不機嫌そうに呟く。

「それ言うなよ……」

「幸せそうな顔ばっかりで辛いんだって……」

「…………」

相沢が「嫌になる」と溜め息をついた。
今日何度目かの自動ドアが開く音がする。その瞬間、相沢は「いらっしゃいませ」と満面の営業スマイルでお客様を迎えた。この変わりようには感心する。

「こんばんは」

入ってきた男性客二人が俺たちに向かって挨拶をした。その顔には見覚えがあった。以前朱里さんと一緒に店に来た同僚の男性たちだ。

「こんばんは……」

意外な来店客に戸惑いながら挨拶を返した。今日朱里さんはいないようだ。
男性たちは俺の前まで来ると一人が「俺たちのこと覚えてる? 橘朱里の同期の山本です」と言った。

「はい……覚えてます……」

朱里さんを呼び捨てにしたことに僅かに動揺する。同期だからこその遠慮のない関係に嫉妬する。もう一人の男性は名乗ることなくメニュー表を見ている。

「忙しいとこ悪いね。持ち帰りでお願いします」

「あ、はい。かしこまりました」

山本さんはまっすぐ相沢を見ると「ブレンドコーヒーと、BLTサンドを」と注文する。

「かしこまりました」

相沢はてきぱきとレジを打っていく。

「僕はこのシナモンロールラテで」

「武藤そんな甘そうなの飲むの?」

「コーヒーは甘くないと飲めないから。これ気になるし」

「お前も橘も子供かよ」

突然出た朱里さんの名前に反応してしまう。

「シナモンロールラテってどんなやつですか?」

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