Sugar&Milk
「中山くん? 大丈夫?」
相沢に呼ばれて我に返る。
「ああ……うん大丈夫」
「変なこと言ってごめんね。でも会社員の彼女さんと時間が合わないだろうから気になってたんだ」
「そっか……」
普段こんなことを言わない相沢がわざわざ話を振ってくるということは、朱里さんの様子が何か引っかかったのだろう。
『特別親しそうに、気安い感じで』
相沢はそう言った。
その時の朱里さんはどんな表情? 相手の人とはどれくらいの距離にいた? どんな関係?
大事な人のことは何でも知りたい。向こうから言ってくれるのを待っていたらいつまでも進めない。もう同じことは繰り返したくない。
閉店作業を終えて電車に乗ると朱里さんのマンションまで来た。見上げた3階の部屋の窓から明かりが漏れているから今朱里さんは中にいる。
連絡しないで来ることを朱里さんがよく思わないことは承知しているし非常識なことはしたくはなかったけれど、今の俺は朱里さんの気持ちを思いやれるほど冷静になれていない。自覚はしていてもどうしようもなく焦っている。
部屋のチャイムを押すと驚いた顔の朱里さんがドアを開けてくれた。
「どうしたの?」
「…………」
勢いつけて会いに来たのに、いざ目の前にすると言葉が出てこない。
「瑛太くん?」
朱里さんも戸惑っている。寝る前だったのかシンプルなワンピースを着ている無防備な朱里さんは変わらず愛しくて、でも俺はこの人のことをまだ全然知らないのだと思うと切なくなる。
「取り敢えず入って」
中に促されて玄関に入ったけれど、靴は脱がずにその場に立ち尽くす。
「何かあった? 奥に入って座ろう」