Sugar&Milk
相沢の名前が出たことでスッと冷静になる。やはり何かを見られた自覚があるからだろうか。まさか本当に後ろめたいことが?
「誰から聞いたかなんてどうでもいい。今俺が質問してる」
自分でも驚くほど冷たい声が出てしまい朱里さんが震えた。
「お願いだから俺に本当のことを言って」
目の周りが赤くなっていく朱里さんはまるで泣くのを我慢しているかのようだ。
「本当のことって言われても……瑛太くんといないときは家にいるか仕事してるよ。それに、いつも男の人と居るって言うけど、営業部は今男性社員が多いし、組んで仕事してるのも山本なの」
「会えないのも仕事のせい?」
低い声で問い詰めるのを止められない。
「そうだよ。私だって好きで残業してるわけじゃない」
朱里さんもどんどん機嫌が悪くなっていくようだ。それに合わせて俺も怒りが増す。
「瑛太くんには分からないと思うけど」
この言葉に息を呑んだ。
俺には分からない? だって何も言ってくれないのは朱里さんの方じゃないか。
「どうせ俺には分かりません……」
朱里さんから顔を逸らす。仕事のことも、大人の人間関係も、朱里さんの本心も、まだ子供の俺にはどうせ何も分からない。
離れている時間が不安なんだ。気になって仕方がない。朱里さんのそばにいる人に嫉妬して苦しい。俺が知らない間に元カレに会っていたことがどれほど傷ついたか朱里さんは知らない。
「疑うようなことはしないでほしいだけじゃん……」
「疑うようなことって言うけど、何が悪いのか私には分からないよ。だって疚しいことは何もないし、食事に行くくらい普通なんだから」