ハイカロリーラヴァーズ
 午前で終わってって。授業はあったはずだから、自分で勝手に終わらせて抜けてたんでしょ。この不良学生め。

 背が高く丸くて狭いテーブルに、これまた背の高い椅子。足の長い青司は簡単に落ち着けるのかもしれないけど、あたしは当然ぐらつく。身長165cm仕様じゃないと思うんだけどこのテーブル。なにこのテーブル。あと椅子。この店、背の高い人しか入れないようなトラップなのこれ。あたしだって身長が低い方じゃないのに。

「そんなに急いで来なくても」

「待たせると思って」

「俺は別に大丈夫だよ」

「ちがう、ビールを待たせてる」

 暑い。首筋を汗が伝う。早くビールを飲みたい。

 琥珀色の冷たい液体が、喉、食道、胃の順番で流れていく。美味しいなぁ。なんでこんな風に人を幸せにできるんだろうか、ビールって。

「いつもながら、旨そうに飲むなぁ」

「美味しいもん」

 青司だって、美味しそうに生ハムを食べている。

「華さんて、酒飲みだよね」

「そうかな」

「いつも思ってるけど、つまみもおっさん」

「うるさいな」

 そのおっさん女に手を出してるの、自分でしょ。サラダを箸でつつく青司を見て、口に出さずに悪態をつく。

 青司とふたりで居るところを、誰か職場の人に見られたら困る。あたしは講師じゃないし、青司はあたしの生徒じゃない。

 講師と生徒だったら「勉強教わっていた」とか言いわけできそうだよねって思ってるあたりがどうかと思うんだけど。でもやっぱりまずい。青司は目立つから……一応、注意はしている。それに、源也に見られるのはもっと困る。

 そんな、今更なことを考えながら、汗をかきかき、待ち合わせの店にたどり着いたわけだ。

 ひとり暮らし、浪人、バンドマン。本当にここだけ聞くとろくでもないなぁ。髪を黒くして、黙っていれば今どきのお兄ちゃんなのに。

 あまり深く立ち入ったことは話さないし、お互い知らないんだけど。ここ最近だ、バイト先がライブハウスだということを話してくれたのは。

 青司は先に飲んでいて、グラスには半分くらいの青い液体。

「なに飲んでるの?」

「カクテル。甘いやつ。暑いから飲みたくて」

 ブルーハワイかなんかだろうか。暑いのに甘いカクテル飲んだら余計喉が渇きそうなんだけど。

「あ、ビールおかわり」

 手をあげて店員を呼び止め、追加のオーダー。バッグからハンカチを取り出して額の汗を拭く。暑かったなぁ。テーブルには枝豆とサラダ。週末の、浮ついた感じのする店内。

「暑かったぁ」

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