ハイカロリーラヴァーズ


「俺ね、メジャーデビュー決まったんだよ」 

 なんのことか分からなかった。なにを言ってる?

「バンド。デビューするんだよ」

「いつ……?」

「来年1月。メジャーから声がかかった」

 どういうこと。え? 何事なの?

「一応ね、少しは売れてんだよ。こっちでは。なんてね」

 青司のバンドがメジャーデビューする? それが決まったから、進学はしないってことなの?

「華さん知らないけど、インディーズでずっとやってたんだよ、俺達。大会のファイナリストまで行ったこともあるし、地元ラジオ出たりしたし、ツアー回ったり。レコード店の売り上げとか。ライブのチケットソールドしたり」

「し、知らない」

「言ってないもん。どうせ遊んでないで勉強しろって思ってただろ」

「うん……まぁ」

 初めて青司のバンドを見に行った時のことを思い出した。ライブハウスぎゅうぎゅうのお客さん。みんながステージ上の青司達を見ていて……。あれが、全国区になるということか。

「バンド内で、インディーズのままで居るのと、メジャーから声かかってるからそっちに行くのと、意見が分かれててね。まとめるまで時間かかった」

 青司は内部事情を簡単に話してくれた。

 インディーズのままでメジャーデビューはしていないバンドやアーティストがたくさん居ること。理由は大きくマージンを抜かれるから。せっかくメジャーに行っても、収入が減ったりするからだ。

 そのあたりが、インディーズのままでリリースを続けることのメリットだということ。

 しかし、メジャー契約をすると、知名度が一気に上がる。会社の規模が違うからだ。すべてのアーティストが大々的に宣伝して貰えるとは限らないけれど、チャンスはある。

 インディーズだと、レコード店にCDを置いて貰いにくいことがデメリットだと離してくれた。

 でも、メジャーに行くっていうことは、つまり。

「東京、行くの……?」

「それはまだ決めてない。行くかもしれないね」

「そ、う」

 松河先生の言葉を思い出した。「荻野は若い。あなたはすぐに捨てられる」と。

「そっか」

 これが、代償か。自分の気持ちに正直に来た、これが。
 職を無くし、青司も。そうか。これがあたしの運命なのか。

< 116 / 139 >

この作品をシェア

pagetop