ハイカロリーラヴァーズ

 青司は、あたしの手をきゅっと握りなおして来た。

「だから、ね。俺のそばに居てね」

「え?」

 予想と違うことを言われて、あたしは驚く。だって、将来的に東京へ行くんじゃないの?

「これから、大変だと思う。だから、華ちゃん居ないとだめなんだ」

 さっきから、なんか勝手に喋ってない? 状況の変化について行けないんだけれど、あたし。

「だって、東京行くんでしょ?」

「行くかもね。だから、その時は一緒に連れて行くよ。来てくれないの?」

「一緒?」

「そうだよ。なに言ってんの。置いて行くとでも思った?」

「だって」

 そうだよ。置いて行かれると思っていたよ。馬鹿じゃないの。なんなの。

「なに泣いてんの? 大丈夫かよ。どっか痛いの?」

「痛い」

「なに、怪我?」

「自転車で、足が痛い……」

「アハハ」

 アハハじゃない。馬鹿。なによバンドなんて。なによ予備校も辞めるって。メジャーデビュー? なんでそう色んなことが次から次へと……。

「親に言ってないんだよなぁ。デビューの話も、予備校辞めることも。まぁ、これから話すけど」

「言ってないの?」

「俺んち、親が医者だからそっち方面に進む予定だったんだけど、俺、バンドやりたくて……高校からのめり込んで、大学失敗して。ずっと説得できてない。実家に帰ろうにも、親父なんて会ってくれないよ」

 だから予備校は医学部コースなんだもの。でも、最初から医者になるつもりなんか無かったのかもしれない。

「そりゃあ……そうかもしれないね。予備校もお金かかってたわけだし」

 お父さんだって、青司が憎くてそういう風にしているんじゃないと思う。期待していたんだ。将来を心配していたんだ。青司だって、分かっているはず。

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