ハイカロリーラヴァーズ
「華ちゃんが講師じゃなくて良かったかも。クラス落ちが怖くて、すげぇ勉強がんばっちゃったかもしれない」
苦笑しながら、あたしの手をまたきゅっと握る。
「親には、これからがんばって、認めて貰うよ」
「……」
強い思いを込めた視線だった。あたしを真っ直ぐ見て、そして、笑った。
「俺は、俺達は、メジャーへ行く」
青司の夢。バンドの夢。ひとつ、階段をのぼったんだ。高校生の時からずっと音楽を追い続けて、いま、つかもうとしている。
あたしは、青司の太腿を叩いた。
「だめだよ。先生殴ったりしちゃ」
「悪いのあいつだろ。クソでクズだろ。まぁ、殴ってはだめだね。ちゃんと謝ったよ」
先生も警察に突き出すことはしないと言っていたそうだし。
殴った青司も悪いし、松河先生のしたことは、許せないことだけれど。
「松河先生、辞めると思う」
「だろうな。あと、俺が有名になってから、あいつが週刊誌にネタを売らないと良いけど」
「それ、シャレになんない」
「だな」
あっけらかんと言う青司に、力が抜けてしまう。
「あたしも、辞めるよ。居られない」
「……だろうね、なんとなくそれは思ってた」
「仕事、探さなくちゃ」
「また予備校?」
分からない。
「ゆっくり考えればいいさ。俺は忙しくなると思うけれど」
「うん」
「ご飯、食べて行くだろ?」
「うん」
「泊まる?」
「うん」
「なに、うんばっかり」
なにを食べようか。メニュー考えなくちゃ。あと買い物に行って。
「また泣いてるし」
泣き止むまでややしばらくかかったけれど、ずっと頭を撫でて抱き締めていてくれた。全部無くしても、青司だけは守りたいと、心に誓った。