ハイカロリーラヴァーズ

 ロッカーの整理が終わったら、校長室へ移動しないと。約束の時間までもう時間が無い。遅れるわけにはいかない。


 隠れるようにコソコソ移動するのはとても心臓に悪い。


 校長室前まで来ると、深呼吸をする。約束の時間ぴったり。校長はいらっしゃるはずだ。

 ノックをする。

「はい、どうぞ」

「失礼致します」

 制服に着替えるわけにはいかなかったから、今日は落ち着いブラウンのスーツ。久しぶりに着た。

「おはようございます」

「おはようございます。さ、どうぞ」

「ありがとうございます」

 またふかふかのソファーへ促される。手短にお話して、帰ろう。お時間を取らせるわけにはいかない。校長もお忙しいんだから。

「あの、お電話で上司にはお伝えしていたんですが……」

「聞いたよ。辞めるんですね」

「はい。辞めます。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「そうですか……」

 言った。もうこれで終わりだ。大仕事が終わった。あたしの「仕事」の終わり。

「いままで、お世話になりました」

 事務員室には顔は出せないけれど、辞めること。上司には電話でそう伝えた。とても残念がってくれたけれど。これからどうするんだとか、宛はあるのかとか、凄く心配してくれていた。申し訳ない。

「ご苦労さまでした」

 校長の言葉に対して深く頭を下げると、涙が出そうになった。あたしなりに真面目に一生懸命働いていた会社だ。仕事だ。離れるとなると、色んなものが胸に込み上げてくる。

 でも、これも自分で決めた道。


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