ハイカロリーラヴァーズ

「荻野くんは、元気かな?」

「あ……はい」

「それは良かった」

 少し迷ったけれど、暗いニュースばかりでは申し訳ないから、言うことにした。青司の、明るいニュースを。

「彼、音楽でデビューするんです」

「……音楽? 歌かな」

「バンドを組んでいて、メジャーデビューが決まったそうです」

「……それはそれは……」

 校長は信じられないような顔をしていた。まぁ、そうだよね……なに言ってるのかなってきっと思ってるね。

「CD出したりテレビに出たりするのかな」

「CDはインディーズから出てますけど、メジャー事務所との契約が決まったそうで、そこからまたリリースがあると思います」

「話が難しすぎて分からないんだが、応援するよ」

「は、はい。ありがとうございます」

 専門用語を言われても分からないか。そうだよね。
 相変わらず大きい窓。もう、行っても良いのかな……話は終わったよね。

「校内放送でCD流そうかな~」

 ひとり言を聞き逃さなかった。校長、けっこうミーハー。

「あの……それでは、失礼致します。お時間取っていただき、ありがとうございました」

「あ、ああ。帰り気をつけて」

「はい」

 出て行こうと、ドアに手をかけた。

「あ、池田さん。ちょっと待って」

 呼び止められ、振り返ると、校長が自分のデスクから茶封筒を出す。それを、あたしに差し出した。

「これ、あとで見ておいて。先方には話してあるから」

 封筒を受け取る。なんだろう。なにか、書類だろうか。ちらし?

「お手紙。あとで見なさい。じゃあね。お元気で」

「は、はい。失礼致します」

 校長がニコニコしているのが気になったけれど、お手紙……? なんだろう。

 校長室をあとにして、足早に予備校から出た。もうここに来ることも無い。

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