ハイカロリーラヴァーズ

 見送りも無い退職。寂しいけれど、でも、これで良かったんだ。いつかきっと、これにも意味があったんだと、思える日がきっと来る。

 今日は朝から雨模様だったから、自転車ではなく電車だった。リエちゃんとの待ち合わせもあったし。

 駅の改札まで来て、電車の時間を見る。あと15分無いのか。でもどこかに入ってお茶を飲むにも中途半端な時間だし。ホームまで行ってるか。ベンチに座ってスマホいじっていれば、電車も来るでしょう。そう思って、改札を通り、ホームへ移動した。

 ベンチに座って、バッグを開けると、さっき校長に貰った封筒が目に入った。ああ、そうだ。これ。

 セロテープで封をしてある封筒を開けて、中の書類を取り出す。A4用紙が2枚と、名刺。用紙には、校長の手書きで文章が書いてあった。

 ― 知人に、音楽教室をやっている人が居て、事務員を欲しがっています。良かったら、連絡してみてください。 ―

 音楽教室のちらしと、名刺。求人情報が入っていた。

「……校長……」

 ― 荻野くんを、支えてあげてください。―

 文章の最後は、もう涙でぼやけてしまった。そんなに校長と接点など無かった。物静かで、少しおちゃめだなとは思っていたけれど。校長室で長く話をしたのだって、今回の騒動があったから、初めてだったのに。

 あたしは、優しい人達の中で働いていたんだ。いま、気付いた。離れてから気付くって、寂しい。寂しいけれど、温かい。

 リエちゃん。校長。その他のみんな。いままで、本当にお世話になりました。

 届かないけれど、あたしは心の中で、そう叫んだ。


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