ハイカロリーラヴァーズ


「こっちからも見に行く人達が居るんだね」

 自分もその中に入るのかな。ファンっていうものじゃないし、なんていうか、言ってみれば身内みたいなもんで。

 テレビの音量を少し下げて、電話の向こうの青司を感じる。

「あーもう、早く帰りたい。華のこと羽交い絞めにしてその上で寝たい」

「なに言ってんの……」

「セックスしたい」

「素人に手を出しちゃだめよ。風俗行け」

「華ちゃん冷たい」

 帰ってくんな。嘘、早く帰ってきて。

「あと数日で会えるよ。あたし東京行くんだし。来週には帰って来るんでしょ」

「んー」

「なに、どうしたの」

「んん……会いたい」

 え? ちょっと。いまはバンドのメンバーと一緒に居るんじゃないの? あんまりそういうこと言ってると、迷惑かかるよ……。打ち合わせとか車の中じゃないことを祈る。

「華ちゃーん」

「ちょっと、泣いてるの?」

「くそー!」

「泣くな! 男だろ!」

 本当に。甘えてばっかり。あたしが居なくなったらどうするのだろうか、この人。

 ズッズッと鼻をすする音が聞こえてくる。なんか、ライブだとかメジャーだとか、色々なことが重なって、情緒不安定になっているんだろうな。あまりに忙しいのも心に悪い。文字通り「心を亡くす」と書くとは、よく言ったもんだ。

「青司が一生懸命やってるから、あたしも一生懸命仕事するね」

「ああ」

「大丈夫。あたしがついてる」

「逞しいなぁ」

「青司を支えるのも、あたしの仕事だからね」

 早く会いたい。会って抱き締めて、安心させてあげたい。それでがんばって夢を叶えている青司を支えたい。
 
 電話を切ったあと、明日、新幹線チケットを取りに行こうと思った。

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