ハイカロリーラヴァーズ
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「彼氏、仕事?」
青司の言葉と声を思い出していた。気休め程度にカーテンの付いた脱衣所の向こうから、シャワーの音が聞こえる。青司は必ず、源也の帰り時間や、今夜は仕事なのかとか、そういうことを心配する。面倒を避けたいんだろう。それはあたしも一緒だ。
利害の一致。いわゆるセフレであるこの関係は、面倒や修羅場やお金なんかが絡んでしまってはいけない。ましてや、恋心なんかもいらない。あたしが青司を愛することは無いし、青司もあたしに心を奪われることは無いからだ。
今日はまた一段と古くさいホテル。いつも同じホテルとは限らなくて、どこでも良かったし。そういうのがあたし達にはお似合いなのかもしれない。
「出たよ。入ってくれば」
「あーうん」
「まだ飲んでんの?」
青司の呆れた声。
「ビール、冷蔵庫に入ってるから」
ここに来る途中、コンビニでビールを2本買った。今日みたいに暑い日は、シャワーの後に冷たいビールを飲むに限る。泥酔はしたくないけれど、そう言いつつ、店でも飲んだし、いまも飲んでる。シャワーから出たらきっと飲む。軽く酔うくらいがちょうど良いのにな。あたしはかなり飲んでいた。
薄暗い脱衣所。ブラウスとキャミソールを脱いで、スカートに手をかけた。かいた汗を早く流したい。
その時、足音が近付いてきた。
「もうシャワーいいよ……おいでよ、早く」
脱衣所のカーテンが乱暴に開けられて、スカートだけ履いた格好で手を引かれた。「ちょっと」という抵抗は聞き入れられない。
なにを急いでるんだろう。別に時間が無いわけじゃないのに。脱がされるスカートとパンスト。無抵抗で受け入れる。体のあちこちをまさぐる大きい手。源也の手じゃないけど「男の手」という熱と硬さ、肌質。目を閉じれば源也の感じを思い出せる。
シャワーを浴びたかったのに。暑さが肌に張り付いたままで気持ちが悪かった。
「いつもの、ちゃんとしてよ」
抵抗しても無駄だと分かったので、大人しく身を任せた。でも、忘れては欲しくないことがある。
「……分かったよ」
舌打ちと鼻で笑う声が聞こえた。面倒なのと、嬉しそうなのと混じったような。
「タオルでいいかなー」
なんでもいい、そう返事してあたしは目を閉じた。
「ああ、ここ浴衣あるんだ。帯でいい?」
ベッドに仰向けで足首にパンストを引っかけたまま、体を起こすと、青司が入口近くの棚から長い平たい帯を引っ張り出した。