ハイカロリーラヴァーズ
「遊びでしょ。そっちだって最初からそのつもりだったくせに」

 その言葉に、青司は鼻で笑った。憎たらしい。

「そうだよ。面倒は嫌いだ」

 その通りだわ。あたしだって。

「俺も最低だけど、華さんも最低だかんな」

「……言われなくたって」

 源也を好きなあたし。抱かれたいのに触れてくれない。あたしに空いた穴は、寂しさの風が吹き抜けて行く。そこを、青司で埋めている。ああ、なんて最低。

 目を塞がれ、暗闇で聞く自分と青司の吐息。耳と肌の感覚が鋭くなり、過敏に反応する。それだけ、自分は視覚に頼っているんだと分かる。吐息も体も、指先まで熱い。

「……俺だけ、見てればいいのに」

 快楽の間に、耳元で囁かれた言葉。一瞬、聞き間違いかと思った。NGワードすれすれの。あたしは、息を飲んだ。

「……」

「うそ。冗談だよ」

 最低。あたしの反応を見て遊んでいるに決まっている。

 この関係を終わりにする時が来るとすれば、お互いに必要じゃなくなった時か、片方が飽きた時。それと、源也と別れる気が無いあたしを青司が連れて行きたがる時。

 いまのは、聞かなかったことにするし、行為に集中して欲しい。青司も、なにも考えなければ良いのに。たとえば、あたしを忘れられない昔の恋人と重ねたって良い。あたしは、青司を源也の代わりにしてるんだから。

「……もっとして。源也」

「……」

 あたしを抱くのは源也。あたしが好きなのは源也。この瞬間、想うのは源也なんだから。青司じゃないんだから。

「もとや」

「……は、な……」

 お願いだから、声を聴かせないで、黙っていて。あたしの目隠しの意味が無くなってしまうから。

 少しだけ、青司の声が湿って聞こえたのは、あたしの体が濡れていたからだろう。

 態度が冷たくなったとか、乱暴になったとか、源也は源也で変わりないのに、本人そのものなのに。変わってしまった。好きなのに、一緒に居たいし離れたくないのに、その気持ちとは別の所で、心がざわざわするんだ。

 居心地良かった場所が、そうじゃないものに変わった。でも、あたしは源也が好きだった。

 源也のことを考えながら、違う男に抱かれる。目隠しをして、これが源也だと言い聞かせて。時々聞こえる青司の声。「華さん」と名を呼ぶ声。

 喋らないで。お願いだから。この関係に終わりが来ても、終わっても、あたしから漏れ出てしまってはいけないもの。

 青司の姿を認めてしまったら、源也にあたしの嘘と秘密がばれてしまう気がして。目隠しをすると、不思議と罪悪感が消えて行くから。だから。



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