ハイカロリーラヴァーズ


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 体がだるい。昨日は少し飲み過ぎたかもしれない。もうすぐ昼の時間になるけれど、快方に向かわない。参ったな……二日酔い用ドリンクでも飲めば良かった。今朝は寝坊してしまったし。

 何度目になるか分からない長いため息をつく。パソコン画面も書類も、だるさしか運んでこない。お酒は程々にってことだ。深酒した次の日は、もう二度と飲むもんかと思うんだ。(それなのに同じことを繰り返す、大人ってばかだね。)

 昨夜、源也は案の定あたしよりも遅く帰ってきて、スーツのままソファに倒れ込んだ。今日、源也は仕事が休みだった。だから同僚と思う存分飲んできたのだろう。

 あたしは青司と別れて帰宅し、シャワーを浴びてからまたビールを1本飲んで、テレビを見ていた。午前1時。飲み過ぎているな、自分でも思う。仕事があるんだから早く寝れば良いものを……。

 ビールを飲むあたしを見て、ふらつきながら源也が「俺もう飲めない」と言った。ドサッとソファに沈む。

「飲み過ぎたんでしょ……」

 ふらついているだけで、意識はあるみたい。寝言かと思ったけど、そうじゃない。

「もう飲めない」

 うわごとのようにつぶやいている。タクシーにちゃんと料金払ってきたのだろうか。

「水、持ってくるよ」

 居酒屋の、酒と煙草が混じった匂いがする。あたしは立ち上がり、キッチンへ向かおうとした。

「……華、ちょっと」

 バスタオルを頭にかけたまま立ち上がったあたしを、源也が手招く。起こしてくれとでも言うのだろう。今日はイライラしていないみたいだ。

「大丈夫?」

 そばに寄ると、腕を掴まれる。お酒臭い。……なにかされるのでは、咄嗟にそう思う。体が無意識に堅くなる。

「……お前」

 だいぶ飲んだんだろう。真っ赤な顔と、潤んだ目。あたしを掴む手に力が込められた。痛い。

「お前……俺を、好きなのか?」

 あたしを射抜くような目が、答えを喉の奥に引っ込めてしまった。
 そんな昨夜のことを思い出して書類を眺めても、集中できるわけが無い。気分も良くない。

 どういう意味だろう。俺を、好きなのか。そんなことを聞くなんて、いままで無かった。
 ため息をつきながら書類ファイルを開く。目を閉じて、頭に残る源也のあの目を振り払った。

 昨日は源也も青司も、なんだかいつもと違うなと感じてしまって。こっちまで調子が狂う。
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