ハイカロリーラヴァーズ
 出逢って数ヶ月で、とか数週間で電撃入籍なんていう友達も居たっけな。それって不安じゃないのかなって昔は思っていたけど、電撃でも爆撃でもなんでも良いよねと考えるようになった。好きな人と一緒になれるならなんでも良いんじゃないかと。

 ここ1年で源也が怒りっぽく暴力的になったことで、気持ちが揺らいでいたけど。揺らぐ中でも、でも……源也が好きだった。

「タイミングだとか言うけど、それもだけどね、勢いだよ、華ちゃん」

「それよく聞くよね」

「うちなんか、勢いだけで結婚して4年でまだ子供居ないから、まわりがうるさいよ」

 でもリエちゃんはご主人とラブラブなんだ。あたしは知ってる。左手薬指のシンプルな指輪は、愛を誓った証ですものね。子供が欲しいと時々言っている。

「結婚しなければなんでしないんだ、すれば子供はまだなのか。早く作れ、そんで産めば産んだで2人目はとか言われるよ女は」

 カツ丼を頬張って「女は」と言ったリエちゃんの唇が油でテラテラしてる。実家の母の顔と重なった。「そんなに言われちゃストレスで妊娠しにくいっつーの」とカツにお箸を突き刺す。

「作るって言い方がいやだねー。授かりものでしょう」

 知ったようなこと言ってるな、あたし。

「とか言って、すぐ妊娠したりして。華ちゃん」

 ご飯粒を飛ばしながらリエちゃんは笑った。

「ずいぶん結婚しろって言うね。リエちゃん」

 あたしは、源也を好きだけど、好きで、それだけだった。愛していて、ただそれだけ。あたしの想いだけがあの部屋に漂っている。

 妊娠するわけない。だって、源也とセックスしなくなって、1年くらい経つんだから。キスの温度も忘れた唇で、あたしは笑って見せた。

「華ちゃんは、彼と一緒になりたいの?」

 その質問に即答できない。分からない。一緒になりたいか。源也と結婚したいのか。源也は? あたしと結婚しようと思っていないことなんて分かり過ぎるほど分かるもの。

 だからだ。たぶんそう遠くない未来。別れて、ひとりになるのを自分で待ってるだけのような。きっと、源也とずっと一緒じゃないだろうという予感。



「時間と体と神経の無駄遣いに見えるよ。華ちゃん。結婚したいならね」

 その言葉と声が頭に響く。リエちゃんの目は、鋭かった。

 結婚する気が無いなら別れろって言いたいのかな。そもそも、結婚するってなんだ。

 そういう手続きを取らなくても愛し合って一緒に居るカップルはたくさん居るのに。

 あたしは、誰と一緒に居たいの? 源也を好きだけれど、きっと将来ふたりは一緒にいられない。それに気付いているのに、源也を好きだというこの気持ちは、本物なんだろうか。




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