ハイカロリーラヴァーズ
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仕事中、制服のポケットでスマホが振動した。時間は18時半を回っていた。金曜日のこの時間に連絡をしてくる人は、まず源也ではない。
最近じゃ、あたしのメールとかに返事することもおざなりになっているけれど。
ポケットからスマホを取り出すと、メールをチェックする。
「華さん、今晩デートしよう」
1件のメール。デートしよう。その文字が紡ぎ出すのは淡い恋心とか浮ついた気持ちとか、ときめきではない。あたしに足りない何かを補いたい欲求と、得られない快楽のはけ口。自覚している。
源也は今夜、会社の仲間と飲み会があると言って出勤していた。先日の洗濯物生乾きの時から数日。キレたりすることもなく穏やかに過ごしている。怒らないと静かなものだ。安定していられる。
ちょうど良いわ。このメールに対しても、その程度にしか思っていないもの。画面の文字を見て、どう返信を打つかと考える。あまり深く考えなくて良いんだ、別に。青司だってそう思っているはず。
「いいよ。ご飯、食べに行こうか」
あたしは、そう青司に返信した。彼はいま、このビルのどこかに居るはずだ。
ご飯食べようか、なんて。そんな可愛らしいものじゃないけど。デートっていう言葉の中に含まれた色々な意味。あたしは青司と会っても、外泊したりしない。泊まらないで、きちんと家に帰る。あたしに飽きてしまった恋人が居る部屋へ。
少し前、青司の部屋に招かれたことがあったけど、その時もちゃんと源也の元に帰った。
源也はあたしが遅くなっても、酒を飲んで帰って来ても、キレる時はキレる。キレどころもよく分からないから、怒ることがあれば怒りが静まるまでじっとしているしかない。
もうすぐいまやっている書類が終わる。リエちゃんも帰り支度をしているし、あたしは今日、19時まで。あとは残りの男性達に任せてしまおう。
男性陣はみんな家庭持ちだけれど、予備校の授業が終わって、21時半の閉校時間まで残っていて、なんだかんだと仕事をしている。
「お疲れ様でした」
「お疲れー」
時間ぴったり。パソコンがシャットダウンしないうちにそう挨拶して、事務所の隣にある更衣室へ向かった。向かう途中、生徒に出くわして「お疲れ様です」と言われる。