ハイカロリーラヴァーズ
なんていうか、青司はミュージシャンの卵とでも言うのかな……バンドを組んでいて、要するに「バンドマン」だ。
それはそれはとても容姿に恵まれていて、頭だって悪いわけじゃない。医学部コース在籍なら想像が付く、ご両親がお医者様。高校は県内有数の進学校を卒業していた。
家柄も良く、頭脳明晰、見目麗しい……2浪中のバンドマン。なんだそのオチ。
音楽をやりたいなら予備校なんか通わないでそっちに専念すればいいのにな。そう思う。もしくはちゃんと進学したいなら、音楽を辞めるか。
2浪中の身、のんびりしている場合じゃないと思う。
音楽で食べて行きたいのか、デビューが目的なのか、それとも進学なのか。本心は知らないけれど。
バンドをやってる。どういう系統か、路線は? とか……そういうのはよく知らない。「バンド組んでて」「ライブがあって」「スタジオ行ってた」そんな単語ばかりを聞く。
聞けば答えてくれるのかな。あたしから聞かないから、だから青司も言わない。
バンドって、それだってどういうことなのかいまいち分からない。ちゃんと聞いたことが無いから。「ロックやってるんすよ。将来は~」みたいに夢を語る感じでもない。熱く語られても困るんだけれど。
少し……そう、バンドの話をする時だけ、なんだかとても楽しそうにしている。その他のことには、無気力さすら感じる。
混雑する駅を抜け、いったん冷房で引いた汗を、またじっとりとかきながら、地下道を進む。今日の店もまた駅からちょっと離れたところだ。駅前商店街アーケードから少し外れて、静かな通りにある店で待ち合わせだった。
薄暗くなってきて、会社帰りらしき人達が行き交う。週末だから飲みに出ている人も多いと思う。平日の夜と比べると、やはり人が多い。
混雑していて歩きにくいし前に進みにくい。あたしは早く店に到着したいんだ。イライラが募る。男と待ち合わせなのに、ときめきも何もあったもんじゃなかった。
イライラしながらずんずん歩いて、待ち合わせの店に入った。あたしを認めた店員が「いらっしゃいませ」と声をかけてくる。
「連れが先に居るんで」
「あ、どうぞ」
客が多い店内を見渡す。奥の方を見ると、ひときわ目立つ頭を見つける。金髪に近い茶髪。整った、外国の血でも混じってるかのような綺麗な顔。その顔は、無表情で手を挙げた。あたしはそっちへ向かう。コツコツとヒールの音が足首に響いた。
「早かったね」
「予備校に来てた? 先に出たんだね。あたし今日は終わりまでじゃなかったから」
「行ってたよ。午後からリハあったから、午前で終わってスタジオ行ってた」
バンドの話だ。そういうことか。
「……あっそ」