ハイカロリーラヴァーズ
「華ちゃん、明るくなったね」

「ええ、そう?」

「うん。前と違うもん」

 甘えるように青司はあたしの鼻をつまんだ。

「ふが」

 そんなにあたし、暗かったのかなぁ。それって言われないと分からないもんだよね。

「チラッと見えたけど、華ちゃんの彼氏。あんな感じだったんだ」

 見てたのか。源也は玄関の外まで出てきてたもんな。

「あんな感じ。がっかりした?」

「まぁね。俺の方がイケメンだと思う」

「……はぁ」

 よくもまぁそんなことを言えるね……。

 あたしは、青司の顔を見ながら、ここ最近の地獄と天国を思い出していた。源也を本当に好きなのか疑い始めたこと、青司の想い。もう続けられないと思ったこと。乱暴されたこと、源也と別れたこと。

 全部、あたしがここにこうして居ることへと繋がっている。それは疑いようの無いことだった。あたしは選んで、ここに居る。

「源也……あたしと青司のこと、気付いてたよ」

「まじで?」

 青司は驚いた目で見上げてきた。

「言われたもん。俺と違う煙草の匂いがするって」

「そっか……分かってたのか」

 隠し通していた期間。どこで源也が気付いたのかは分からない。あたしに飽きてしまったのと、青司と関係していたことと、どっちが先なのは分からない。いまとなっては。

「今日ね、出てくる時、大切なもの無くしたかもって気付いたって、そんなこと言ってた」

「華ちゃんの大切さに気付いたってこと?」

「なに、言ってるんだろうね、いまさら」

 ふふっとため息みたいに笑ってみた。得体の知れない寂しさと、安心。青司がくれる安息。混じり合って、なんだか空中に浮いているみたいだった。

「戻りたい?」

「なに言ってるの。そんなことこれっぽっちも思ってないよ」

「そうか……」

 すがるような源也を置いて出てきたんだ。青司のところに来たんだ。自分の意志で。あたしは、青司と一緒に居たい。


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