東雲沙紀の恋の事件簿―見合い編―
 私、東雲沙紀(シノノメサキ)、29歳独身。

 職業はS県B警察署生活安全課ストーカー対策室に務める婦人警官で、家族は私が小学生の頃に父は交通事故他界し、現在は母と2人暮らしをしている。

 母と夕飯を食べてる時はいつも私の将来についてが多く、この日の夕食もお決まりのフレーズから始まった。

「沙紀が結婚するまで、あとどれぐらいかかるのかしら。お母さんの職場の人を紹介しようか?」
「結婚はまだ考えていなし、紹介なんて結構です!」

 今日の夕食は母特製の野菜コロッケで、母からの提案を断りながら揚げたてのコロッケを頬張る。

「そんな風に言わなくても…、もしかして好きな人がいるの?相手はどんな人?ちゃんと働いている人?」
「お、お母さんには関係ないから!」

 私はこれ以上話をしても無駄だと思ってコロッケを残して箸を置き、自分の部屋に戻ってドアに背中を預け、ふぅっと深いため息を吐いた。

 毎回毎回、人の恋愛についてあれこれ言ってきて余計なお世話だって!!そりゃぁ、あと少しで30歳という年代に突入するけれど、好きで独身を謳歌しているわけじゃない。

「好きな人、か……」

 私は部屋の中にある机に近づいて、机に置かれているフォトフレームを手に取り、そこに写る人物に視線を落とした。

 この写真は私がB警察署に初めて配属された日に撮影されたもので、B警察署を背景に同期の警察官数人が制服に身を包んで敬礼する姿があり、私の位置から2人離れた所に立って敬礼している1人の男性警察官がいる。

 彼の名前は南山彰(ミナミヤマアキラ)と言い、私が警察の仕事を目指すために大学卒業後に警察学校へ入校した際に出会った同期で、現在は私と同じS県B警察署刑事課強行犯係に配属されている警官だ。

 南山は自信家で気難しいところもあって同期の中でも苦手に思う人も多く、私も顔を合わせれば何かと言い合ったりしているけれど、人一倍正義感が強く、危険な事件でも怯まずに立ち向かっていると刑事課の人から聞いたことがある。

 それに―…南山はああ見えて優しい一面を持っているのを私は知っていて、このことはきっとB警察署の職員たちは知らないんだろうな。

 すると窓の外から雨が降る音がして、その音は次第に大きくなり、私は3年前のあの雨の日を思い出した。
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