あなただけを見つめてる。
彼女の涙



うるさいと感じるくらい、朝からザーザー降りの雨。


しかたなく、雨の日は30分かけて学校まで歩いてくるんだけど、着くまでに制服はビッショビショだ。


私は教室に着くと、鞄に入れていたタオルで身体や鞄の水気をふき取っていた。



「おはよう、葉月」



その声にふと見上げると、私よりもっとびしょ濡れになっている向日くんだった。



「……おはよう、」



タオルを拭く手をいったんは止めたものの、私はまた向日くんから視線をそらし、それを続けた。


あの日以来、私と向日くんの間には挨拶以上の会話は一切なくなっていた。




“おねがいだから、もう私にかまわないで……”

“迷惑、なの……”

“女子から人気がある向日くんと話したりするだけで、私の立場が悪くなるの”



向日くんにそう告げた日の帰り道、私は涙があふれて止まらなかった。


あの日から、根本さんたちに嫌味を言われることはなくなって平穏な日常を送っているけれど。


これまでずっと、平穏な日常こそが何よりも大切で、守るべきものなんだと思っていたけれど。


本当に、それが一番大切なことなのかな?


自分の気持ちに蓋をして過ごす毎日は、こんなにも息苦しくてたまらないというのに……。


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