あなただけを見つめてる。
「溜め息つくと、その分だけ幸せが逃げちゃうって知ってた?」
今来たばかりの緑川さんは、自分の席に鞄を置きながらそう言った。
「……!えっ!そうなのっ?」
「ふふっ、葉月さんてほんといいリアクションしてくれるよね」
「……えっ」
「これ、ほめ言葉だからね?」
そう言ってほほ笑む緑川さん。
あの日以来、向日くんと話さなくなった変わりに、私と緑川さんはよく話すようになっていた。
「それにしても、いくら梅雨とはいえ、毎日毎日、ほんとよく雨降るよねぇ」
緑川さんは窓の外を見つめる。
「ほんとだよね。早く梅雨明けして、夏にならないかな」
夏休みに入ったら、こうして毎日、向日くんに会うこともなくなるし。
そしたら、少しは向日くんのこと忘れることできるのかな……。