あなただけを見つめてる。



先生の話が終わり、これから始業式が行われる体育館へと移動しようと立ち上がったとき。



「葵、さっきはいつものクセでみんなの前なのに下の名前で呼んだりしてごめんな」



不意に、隣の席の朝陽くんにそう声をかけられた。



「ううん、大丈夫だよ」



あのときは、あの場で下の名前で呼ばれたことよりも、みんなの視線を一斉に集めてしまっていたことに気を取られてて……。



「けどさ、俺はやっぱり、みんながいてもいなくても、葵と堂々と話したいと思ってるんだけど、ダメ……かな?」



……朝陽くん。



「ううん。私も同じこと思ってた」


「マジ?」


「うん」



そうすることによって、また鳴海のときみたいに嫌がらせにあうこともあるかもしれない。


現に、根本さんからは“その時と同じ目にあいたくなかったら、いい加減もうこれ以上向日くんには近づかないで”って言われてるし……。


あのことをもう二度と繰り返したくなくて、だから私はずっと地味で目立たないようにして生きていこうって決めたはずなのに。


でも今は、私が変われば、きっと未来も変わるって、そう信じてるから──。



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