あなただけを見つめてる。



人気がある向日くんたちに誘われたら、それが普通の反応なんだろうけど。



「ねぇ、葵ちゃんどうする?」



げんなりしている私の耳元でコソッと聞いてきたのは希子ちゃんだ。

もちろん、私の答えなんて初めから決まってる。



「私、今日用事あるから……」



そんなのウソ。

用事なんて何もないけど、学校の外に出てまで学校の人たちと付き合うなんてごめんだ。

ましてや、あんな自分とは住んでる世界が違う人たちとなんてありえないよ。

それに。

私はもうあの時と同じ経験なんて二度としたくないんだから……。



「あ!緑川!」



その時。

サッカー部のひとりで、いつも向日くんの隣にいる男子が教室の後ろのドアから入ってきた女子を呼び止めた。

たしか、彼の名前は土屋陸(つちやりく)。

同じ美術部の子が、“向日くんと一番仲が良くて、向日くんの次に人気があるのが土屋くんなんだよ”って、そんなどうでもいい情報を教えてくれたんだっけ。

< 6 / 299 >

この作品をシェア

pagetop