あなただけを見つめてる。




「今日、クラスのみんなとカラオケ行くんだけど、よかったら緑川も来てよ」




土屋くんに呼び止められた“緑川”さんは、クセのない真っ直ぐに伸びた黒髪のロングストレートに、切れ長の大きな目をしていて、クールな印象のとても美人な子だった。

前から校内で見かけることはあるけど、いつもひとりでいるような……。



「行きたい人たちだけで勝手にどーぞ」



人懐っこい笑顔で誘う土屋くんに、いたってポーカーフェイスのままそう告げると、緑川さんは何事もなかったかのようにその男子の前を通り抜けると自分の席についた。



「…………」



うわ~。緑川さんてすごいな。

私も同じことを思ってたけど、それをズバッと口にできちゃうんだもん。

尊敬のまなざしで緑川さんのことを見つめていると。



“うっわ~。今の見た?”

“緑川さんてちょっと美人だからって調子乗りすぎだよね”

“見ててムカツク。そんなんだから友達できないんだよ”



緑川さんの席の近くで、わざと本人に聞こえるように陰口を叩くのは、向日くんたちにカラオケに誘われてキャーキャー喜んでた目立つグループの女子たちだ。



……はぁ。

女子ってすぐこうなるよね。

ほんと、うんざり。

だから女子って嫌なんだよ。



きっと緑川さんも今の聞いてたよね。

でも、緑川さんは全然同じてないっていうか、いたってポーカーフェイスだ。


緑川さんは、強いな──。

私もあんな風に強くなれたらいいのに……。

そしたらきっと、あの時だって……。

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