あなただけを見つめてる。




今はまだ笑顔でみんながいる場所に戻る自信がなくて。


しばらくの間、私はそこから動けずにいたんだけど。


ずっと、トイレにいると変に思われちゃうだろうし、そろそろお開きの時間だよね。


そう思って、意をけしてトイレから出ると。




「葉月」


「……っ!」



なんで、向日くんが女子トイレの横に立ってるの?


私はびっくりして声が出なかった。



「葉月、具合でも悪いのか?」



もしかして、私がなかなか戻らないから心配してくれてたのかな?


でも、その優しさがつらいよ……。



「ううん、全然平気だよ?」



私は平然とした態度をとろうと努める。



「けど、顔色悪いぞ?」


「ほんとに平気だから……」


「平気に見えないから言ってんだろ?葉月はちょっとここで待ってて」


「え?向日くんっ?」



私が呼び止める声もむなしく、向日くんはみんながいる大広間へと戻っていってしまった。


向日くん、どうしたんだろう?
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