相対ハート



エレベーターに乗り込むと、資料室がある5階のボタンを押し、ポケットからスマホを取り出した。


メール画面にしてみても、新着メールは無い。


新規作成ボタンを押してはみたけれど、何を打ち込もうかと悩むだけ。
結局、画面と睨めっこをしている間に5階に着いてしまった。


--- ポーン


エレベーターの扉が開き始めると、私はそれをポケットに押し込み資料室へと足を向かわせた。


本当は、彼を気遣う言葉だけじゃなくて
『会いたい』
って送りたかったのに、頑張っている彼の負担にだけは成りたくなくて、私にはそれが出来なかったんだ。


メール画面を開き、新規作成ボタンを押し、打ち込んでは消すという事を、何度繰り返しただろうか…。

そんな中、同僚が彼氏へと送るメールにハートの絵文字を使っているのを目にして、心底羨ましさを感じていた。

私だって、『会いたい』という文字列の後に、ハートの絵文字を付け足して送信したかったのに。


…私はそれすらも出来ずにいた。


< 2 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop