相対ハート
止めどなく流れる涙をハンカチで拭っていると、突然この資料室のドアが開かれた。
余り使われていない資料室だったせいか、定時を過ぎたこの場所に、人が来るだなんて思ってもいなくて。
油断して泣いていた自分が恨めしい。
立ち上がり、顔を隠す様にしてうつ向くと、慌てて開かれたドアの方に歩き出した。
きっと、目が赤くなっている。
赤くなっているだけならまだしも、化粧が崩れてパンダ目になってしまっているかもしれない。
こんな恥ずかしい顔…誰にも見られたくない。
入口に立つ人物の顔を確認もせず、
『お先に失礼します。』
という言葉を口にしようとした、その時。
…私は、その人物に右腕を掴まれた。
余りの驚きに体を硬直させると、うつ向いていた私の頭上から優しい音色が降りてきて。
驚きで止まった涙が、また、頬を濡らしていった。
「やっとキミを見つけた。…ただいま。」
彼が後ろ手にドアを閉めると、私は彼の胸に飛び込み、ひんやりとしたコートをぎゅっと握り締めた…。