相対ハート


何も答えてはいないのに、彼は私の頭の両サイドに腕を伸ばしドアに手を付ける。
さっきまでは彼の胸に顔を埋めていたのに、今は目の前に彼の優しい笑顔があって。


泣き腫らした顔を見られたくなかった私は、顔を横に背けてはみたけれど、逃れた先にあったのは…


僅かに感じる彼の呼吸使いと、
袖から香る彼の匂い…


そのふたつの刺激が、2ヶ月前に感じた彼との情事を思い起こさせた。


私の名を愛おしそうに囁きながら、切なげな表情をしていた彼。
彼のリズムに揺らされながら、吐息を漏らした私。

互いに腕を身体に巻き付けながら、気持ちを確かめ合ったあの夜を…。


ドキドキと煩い位の鼓動を感じていると、彼は私を質問攻めにした。


『ねぇ?…どうして欲しい?』
 キミが望むような事をしてあげる。』

『キミが望む事って、何だろう?
 キミの口から聞けると嬉しいな。』


こんな風に意地の悪い質問をしてくる彼は、どこか楽し気で。


でもそれは、私が素直にれない事を良く理解してくれていたからだと思う。


それでも私は、求める感情を素直に表現しきれないんだ。


彼の事が、好き過ぎるから…。


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