幸福道
キーンコーン…。


あたしの安らぎの時間が、電子的な鐘の音で遮られる。




1限目が始まる合図だ。急に重たくなった足を引きずって、スケッチブックをしまい込む。



しぶしぶ美術室をあとにして、教室へ行く。




行きたくないな…。



ガララッ…。


少し遅れて教室へ入った。まだ担任が来ていないらしいあたしのクラスは、賑やかだった。




ガタッ…。

椅子に腰掛け窓を見る。


夏の雲は綺麗で眩しい。



「あのっ…。」




あたしの後ろで、聞き慣れない声がした。


目覚ましみたいな、高い声。



振り向くと、見覚えの無い女子生徒がいた。



長い黒髪に、揃えた前髪。ツヤツヤしたピンクの唇は、ふっくらしていた。


「…何?」


「あ、あのっ…引っ越してきたんですけど…。」と女生徒。

「あー…、何かわかんない事とか?」


「あ、ううん。…よろしくって、言おうと思って。」


「うん。よろしく。」



「私、古宇田さと美です。さとって呼ばれてたの。」


「そう。あたしは松川彩香です。呼び捨てでいいよ。よろしく。」


「うん。」


さとはびっくりするほど口を大きく開けて笑い、自分の席へ戻った。




同世代の子とこんなに自然に話せたのは、久しぶりだろう。



あたしは、何となくさちに好感を持った。





仲良くなれるといいな。



…繰り返される似たような日々に、珍しく変化があった。
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