小悪魔的な君
…なんて、ボロボロと溢れ出してきた涙を拭う事も無くただひたすらに歩き続けていた、その時だった。
「そこのお姉さん」
後ろからかけられた声に、思わず足を止めて振り返る。するとそこには一人の男が佇んでいた。
「こんな時間にフラフラしてたら危ないよ…って、なんか凄い事になってるね」
空には雲がかかってないし、街灯だってポツリポツリとならある。だとしても流石に深夜だけあって真っ暗だけど…まぁ割と人の顔ぐらいは分かる明かるさはある。
「どうしたの?何か嫌な事でもあったんだ?」
そう言って首を傾げるその男を見て、私はすぐに気がついた。
この人…完全に年下だ。
微笑みながらこちらを見ている彼の、整っていながらもなんだか可愛らしさを感じる容姿に、若さ特有の怖いもの知らずな雰囲気。そして感じる…妙に有りげな彼の自信。
こんな時間に女の子に声をかける…つまりこの人は若くてイケメンで遊び人。イコール完全に自分の人生を物凄く楽しんでるタイプの人。
…私とは、まるで違う。
「…常に嫌な事だらけですけど、それが何か?」
いいねぇ、ヘラヘラヘラヘラしてさ。そんなに人生楽しいですか?良い事ずくしですか?こんな酔っ払いのぐちゃぐちゃの女にちょっかい出すぐらいだもん、たいそう余裕のある素敵な人生を送ってるんでしょうね!
「でもあなたみたいな人と違って私は仕事も私生活も何一つ楽しくない。上手くいってないし何にも希望が持てない。…ふふ、孤独死回避のためには彼氏を作れ?そりゃあ私だって欲しいわ!出来るもんなら今すぐ欲しいわ!」