金曜日は微熱
だって、こんな機会、めったにない。

職場では常に忙しくしている比嘉課長だし、そもそも私は口下手の恋愛下手なので、自分から積極的にアピールなんてできない。

こんな、金曜日の、仕事終わりの飲み会で。同僚たちがせっかく作ってくれたチャンスも生かせないなんて、さすがに自分、情けないよなあ。



「小宮?」



うつむいて黙ったままの私を不審に思ったのか、課長が名前を呼んだ。

私は意を決して顔をあげると、こちらに向けられた切れ長の一重の瞳を、じっと見つめる。



「………」



比嘉課長の近くにいると、まるで熱があるみたいにドキドキ胸が苦しくて、ふわふわ思考がまとまらなくなる。

でも、今日はそれだけじゃない。お酒を飲んだせいでものすごく眠たいし、目元が熱くてなんだかさみしい。


……ああ、私、やっぱり酔ってるな。

自分でもそうぼんやりと思いながらも、私は、手を伸ばして課長の黒いコートの裾を掴んだ。



「や、です」

「は?」

「私、課長のお家に、行きたいです」



まっすぐ課長を見つめながら言い切ると、一瞬、驚いたように目を見開いて。

だけどもすぐ、私を咎めるように表情が険しくなる。
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