金曜日は微熱
「なに言ってんだ小宮。いいから早く、家教えろ」

「やだ。課長のお家、行きます」

「『やだ』っておま……もう25歳なんだから駄々をこねるな! 聞き分けろ!」

「やだ、やです~~! 課長こそ私より7つも年上なんだから、折れてくださいよ~~!」

「俺の歳は関係ねぇだろ!」



あ。今ちょっとだけ、比嘉課長が素の口調出した。

普段課長は、歳のわりに重い役職をきちんと背負おうとしてるのか、堅苦しい話し方をする。

でも、たまにこうやって、少しだけ彼の鎧が剥がれる瞬間があって。それを聞くと、どうしようもなく、胸が高鳴るんだ。



「比嘉課長は、部下のお願いをそんなあっさり無下にするんですか?」

「お願いって……あのなあ、」


「あのー、お客さん……」



なおもいい募ろうとした課長の言葉をさえぎって会話に割り込んで来たのは、運転席にいるタクシードライバーさんで。

その明らかにいらついたような空気を感じ取ったのか、課長が思いっきり、ため息を吐く。



「はぁ……仕方ないな。少し休んだら、さっさと帰すからな?」

「……!」



渋々といったその言葉に、対する私はぱあっと顔を明るくした。

複雑な表情でそんな私を一瞥し、課長は、ドライバーに自分の住所を伝える。

そうしてようやく、タクシーは夜の街へと走り出した。
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