金曜日は微熱
けれども私が近付くたびに、課長は後ずさりするから。私たちの間の距離は、一向に縮まらない。

だがしかし、ここは家の中。すぐに課長の背中は、壁にぶつかった。



「比嘉課長、身長何センチですか?」

「176。……小宮おまえ、飲みすぎだ」

「私は152センチなんですけど。両親が低めだから、仕方ないんですよね」

「聞け、人の話を」



その課長のせりふには言葉を返さずに、私はすとんとその場に腰をおろした。

訝しげに眉を寄せる比嘉課長を見上げながら、ぽんぽん、自分の前にある床を叩く。



「課長、座ってください」

「………」

「比嘉課長」



語気を強めた、私の声に従って。見るからに警戒しながら、課長がゆっくりと床に座った。

そうして私は、あぐらをかく彼の目の前でひざ立ちになると。

その頭を囲うように、トン、と背後の壁へ、両手をついた。



「……小宮。どういうつもりだ、これは」

「いわゆる、壁ドンというやつです」

「は? 壁……?」



不機嫌そうに私を見上げる課長にぐっと顔を近付けると、彼は一瞬怯んだ。

その目を見つめたまま、語りかける。



「……比嘉課長は、私の気持ち、知ってますよね?」

「……!」



今日初めてあからさまに動揺した課長が、目を見開いた。

ああやっぱり、と思いながら、私は続ける。
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