脳電波の愛され人

商店街

いろいろな店がたくさん並んでいた。
僕は商店街の大きさに呆然としながら、上についている看板を見た。
英語で書いているものもあれば、墨で書いてあるものもあった。
いきなりドンッと僕に衝撃が伝わる。
誰かにぶつかってしまったようだ。
「ごめん。」
頭を下げて謝る。
相手は橙色の髪の男で、ピアスをいくつか開けていた。
なぜかこちらを見てニヤニヤしている。気持ち悪い。
橙色の男の後ろから、ずらずらと人が並び出てきた。
みんな髪が橙色で、不覚にも笑ってしまうところだった。
僕は謝ったからいいやと思い、その人達の横をすり抜けようとした。
「待てよ。」
橙色の男の人が、僕の手をぐっとつかんだ。
もしかして慰謝料と言ってお金を請求されるのではと思いつつ、僕はゆっくりと振り返った。
心臓がばくばくとなる。
しかし、相手は慰謝料を請求してくるのではなかった。
「上ばっか見てどうしたんだ?迷子か?」
僕は意外な相手の言葉に戸惑いつつも、首を横にふった。
橙色の男の人は少しがっかりした後、立ち直ったようにまたニヤニヤとした。
「迷子じゃなくてもいいや。一緒にゲーセン行って遊ばない?」
僕はまた首を横にふった。
「なぁ、少しでもいいから。」
そういってぐいっとさらに腕がひっぱられる。
僕はその力に反抗しつつ、腕をふりほどこうとひねった。
「取り合えずこっちきて。」
仲間の内の一人が、僕をヒョイと担ぎあげた。
じたばた暴れてみるものの、全く効かなかったようだ。
店と店の間にある細い隙間につくと、じたばたしている僕をすとんとおろした。
ここは暗く影になっているから、早く出た方が良さそうだ。
「ねえ、話があるんだけど。」
橙色に赤いメッシュの入った人が近づいてきた。
恐らくここの頭だと思う。
僕は少し後ずさりしながらも話を聞く体制に入った。
「俺、君に一目惚れした。」
唐突だった。
多分この人は僕を女と勘違いしているのだろう。
そりゃそうだ。女の格好をしているのだから。
「あの、僕、男。」
傷つけない為にも言わないべきか迷いつつ、ポツポツと口に出した。
「はぁぁっ!?」
橙色の人達から一斉に声が漏れる。
「ははは。冗談はよくないよ。」
メッシュの人が棒読みで言った。
声で男だと判断したのだろう。
「嘘だろ!?」
未だ信じられない橙色の人が僕の体をボディチェックみたいにペタペタ触る。
「あぁー!!男だぁー!
少し好きだったのにー!」
橙色の男の人は叫ぶなりしゃがんでしまった。
他の人もかなりのショックを受けているそうだ。
僕はこのすきにと思い、こそこそ抜け出そうとした。
しかし、それを阻止するかのように、グッと足をつかまれた。
みると、橙色の男の人だった。
「もういい。男でもいいわ。俺と付き合ってくれん……」
話の途中で、橙色の男の人に強烈なパンチがくだった。
どうやらメッシュの人が出したらしい。
「アホかあんたは!お前にそんな趣味があったとは驚きだ!」
橙色の男の人はたたかれてこぶになっているところをさすった。
「だって男とわかった今でも嫌えないじゃないですか!」
「あの、多分それは僕が愛される脳電波を出してしまっているせいだと思います。」
僕はひかえめに横から口をそえた。
僕の脳電波が意外だったのか、橙色の人達がバッと一斉に驚いた顔をこちらに向けた。
ここは笑ってはいけないところなのだろうけど、その光景が滑稽すぎて、つい笑いそうになってしまった。
しかし、笑わなかった。
しばらくの沈黙がはしる。
僕はこれ以上ここにいると気まずくなると思い、この場を立ち去ろうとした。
しかしその時、一人の人が急に僕の元へ来るなり、殴った。
ショートカットのピアスをたくさんつけた男の子だ。多分この中では最年少だろう。
アホ毛がはねていて可愛いとか思っていたけど、意外なパンチの強さにその思いも吹き飛ばされてしまった。
「確かにお前は外見が可愛いが、僕は騙されないぞ。なんたって僕は脳が脳電波を打ち消すようにできてるからな。自分の脳電波も打ち消してしまうけど。
お前を殺すことだって僕にはできるんだぜ。」
その子は僕にナイフを向けた。
僕は殴られた痛みに改めて感動しつつ、転ばないように仁王立ちをした。
ナイフを向けられても怖くなかったのは、恐らく痛みを少し愛してしまったせいだろう。
「ふん。怖くて声も出ないか。」
その子が威張ったように鼻で笑った。
「あ。」
僕は言われっぱなしだとなんか嫌だったので、声を出した。
しかし、その子は相変わらずドヤ顔をしている。
僕は今、それがあまり意味のないことに気づいた。
「おい、ナイフをおろせ。」
メッシュの人が叫んだ。
必死に僕を傷つけるのを止めるのは、僕の脳電波のせいだろう。
「でもっ!」
「俺の命令が聞けないのか。」
その子は反論するように叫んだが、睨まれてビックリしたのか、肩を震わせた。
「みんなこいつに騙されすぎです。
みんなそんな人だと思いませんでした。
そんな人に従うくらいなら、僕は、このチームを、抜けます。」
震えた声だった。
力を振り絞って言っていたからだろう。
それは泣きそうなのを我慢でもしていたのだろうか。
「それは好きにしろ。しかし、ナイフはおろせ。」
少しはその子の心配をしてあげたらいいのに、僕のことを心配していた。
そして、その声は必死だった。改めて僕の脳電波に感心した。
しばらくの間、その子は迷っている風だったが、開き直ったように顔をあげると、「嫌だっ!」と叫んだ。
声がずいぶんきっぱりしていて、さっきとは大違いだった。
目はさっきまで僕を睨んでいたのに、いつの間にかメッシュの人を睨んでいた。
「ならしょうがない。」
そういってメッシュの人は殴りかかろうとした。
その子は後ずさりするように一歩下がったが、何かを思いついたのか、にまりと笑った。
しかし、メッシュの人の動きは、橙色の人によって止められてしまった。
「警察に見つかります!そうでなくとも大頭様には伝わってしまいます!」
「何いっているんだ。あいつは見つからなかったじゃないか。」
「それはそうですけど……」
「ここにいる奴等が全員黙っとけばいい話だ。」
「しかし、あいつがいます!いまこっそり覗いているかもしれません!」
何かごちゃごちゃしているようだが、僕には関係のないことだ。
それより僕はここから抜け出したい。
そう思って僕は背中を向けた。
「逃げるのか?」
背後からそういう嘲笑った声も聞こえたけど、無視しよう。
この挑発に乗るのは一定のバカだけだ。
それに、ここから抜け出せるのなら、後で殴られようと、どうでもいい。
「無視をするなっ!」
そう怒鳴ってその子はナイフを僕に突き刺そうとした。
表情はわからないが、怒っていることは確かだろう。
後ろから少しだけ風圧を感じたかと思うと、とんっと僕の背中に手が当たる。
僕は振り向いた。
その子が何をしたか気になったからだ。
僕は僕をナイフで刺すと思っていた。
何か刺せない理由でもあったのだろうか。
何が起こったのかその子にもわからないらしい。
その子はとても信じられないというような顔をして、刺したはずのナイフを落とした。
カランカランと音を立ててナイフか落ちる。
しかし、そこにあったのは、ナイフのとってだけだった。
「どういうことだ!?」
橙色の人が僕を睨み付ける。
さっきまでメッシュの人と話していたのに。
流石にこれはまずいと判断し、僕は逃げるように歩き出した。
「まてっ!」
後ろから声がかかる。
しかし、僕は無視をした。
足音がだんだん近づく。
僕は足を速めようとしたが、そう判断したときには、足音がすぐ後ろまで来ていた。
ガシッと肩を掴まれる。
しかし、僕は反抗しなかった。
反抗しても意味がないと思ったから。
橙色の人は、しばらく黙り込んだあと、まだ迷っているかのように、ゆっくりと口を開いた。
「お前は……」
「はーい。そこまでー。」
突然上から声がした。
驚いて上を見ると、人が屋根に乗っかっていた。
服装からいうと警察だ。
しかし、外見がいかにもヤンキーという風だった。
髪型は、襟足をあまり切らない、前髪を片方によせた感じで、寝癖みたいにはねている。それは癖なのかわざとなのかわからないけど。
耳にはたくさんのピアスがあり、どれも銀色だった。
そして、何よりも目立つのが、緑色に銀色のメッシュという髪色に、赤い目というクリスマスカラーだった。
「警察!?今更!?」
「なぜ!?」
橙色の人達は、驚いたようにざわつき出した。
それに答えるように、警察と呼ばれた人がニコッとして話し始めた。
「ごめんねー。こちらの不具合でここだけ状況がわからなかったんだ。
でも大丈夫。もう復興したからねー。
それでー、わからなかったところを一応確認として見てみるとー、あれれー?人が人を殴ってるよ?
っていうことで来ましたー。」
みんなは金髪の子を睨みつけた。
金髪の子は、ガタガタと震えていた。
そりゃそうだろう。みんなに睨み付けられているのだから。
「お、俺らは関係無いよな!?」
橙色の人達のなかの一人が声をあげた。
その言葉に反応したのか、警察と呼ばれている人がその人の方を見た。
「ひぃっ!」
その人はびっくりしたように、ポテッと尻餅をついた。
「そうだねー。責任は個人にあるしねー。
別に帰りたければ帰っていいよー。
残りたければ残ればいいしー。」
警察と呼ばれている人はにっこりと笑った。
その言葉に安心して胸を撫で下ろしている人もいれば、急いでここを離れたいというのか、逃げるように去る人もいた。
「君と君は帰っちゃダメだからねー。」
そういって警察と呼ばれている人は、僕と金髪の子を指差した。
金髪の子は、今にも死にそうな感じで、下を向いて震えていた。
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