脳電波の愛され人
「そういえば、車椅子の方に眠らされた後遺症の話を完全にしておらんかったのう。……で、どこまではなしたかのう?」
「ふたつめまで。」
「おう、そうかそうか!
で、みっつめは二重人格。これは自分のなかにもう一人の自分が住み着くのじゃ。……まぁ、この後遺症をフル活用しておる方もおるがのう。なにしろ、自分が二人になったみたいなものじゃからな。
そして、よっつめが言葉の喪失。これは言葉がしゃべれなくなってしまうのじゃ。ちなみに言葉は理解できるぞ。声を発することはできるのじゃが、言葉にならないというやつじゃ。
最後のいつつめが命の消失。これがあんたにかかった後遺症じゃ。ちなみに後遺症にかかるのは、この世にそれぞれ一人ずつだけじゃ。ちなみに全種類もうすでにかかっておるぞ。」
僕は首をかしげた。義人の言ったことに疑問を感じたのだ。「いのちのそうしつ」?僕はここで生きていますが……。
「あ、いまあんた『俺は死んでませんけど』みたいなこと考えたじゃろう!顔に浮かんでおったぞ!
……ちなみにそれについて言うとしたら、姉御の父がひどくあんたを気に入っておってのう。その方は人の細胞を自由に操る脳電波をもっているのじゃ。
……ちなみに脳電波というのは、無意識のうちに人の脳から出ている電波で、レム宝石でその力を引き出せるぞ。
まぁそれはともかく、その脳電波で細胞を操って、あんたを生かしたのじゃ。そして、その脳電波がなくなるとあんたも死んでしまうから、永遠にその脳電波がかかるようにしたのじゃ。
ちなみにどうやったかというと、奥さんが時間を操る脳電波でのう。奥さんが0.01秒たったら0.01秒前に戻るように設定したのじゃ。髪の毛を除いてな。さらに、お前が強い刺激を受け取らないように、その強い刺激を与えるもののほうを排除するという設定もつけてあるそうじゃ。あー恐ろしい、恐ろしい。」
僕は髪の毛を触った。再生されるのにはこういう訳があったのか。
髪の毛に強くかけなかったのは、長いし、あまり必要でないからという理由でだろう。
僕は、うれしかった。
誰かに愛されてこんなことをしてもらえるのは久しぶりのような気がした。
「ちなみに、あんたは『愛されていて嬉しい』と思うじゃろうが、はっきり言ってしまうと、それがあんたの脳電波じゃ。あんたはおそらく生まれつき強いのじゃろう。常に脳電波が出ておる。……まぁそのせいでそうとわかっていても嫌えないのじゃがな。」
それが僕の脳電波……。だからかな。おにーちゃんが僕だけを木の上に登らせてくれたのは。
そう思うと、何か悲しくなってきた。
「おう、落ち込まないように言っておくが、『脳電波は実力の内』じゃぞ。……ちなみに『運も実力の内』をパクったわけじゃないからのう!」
なんか中心部をつかれた。思っていることをストレートにかえされた。でもそういってくれたから、少し楽になった。
「ちなみにきみの脳電波は記憶喪失?」
「うーん。何かそれじゃと自分が忘れるみたいじゃな。言うとしたら、記憶を失わせる脳電波じゃな!
ちなみにこの脳電波は、思い出そうとすればすぐに思い出すから、一時しのぎにしか使えん。
あと、俺のことは義人と呼べ!嫌なら上野でもいいぞ。俺の名字じゃからな!」
そういって義人はニッと歯を見せて笑った。綺麗な白い歯だった。健康で何よりです。

「おうおう、そういえばあんたの名前、決めとらんかったな。ちょい千草呼んでくるわ。」
パンッと手を叩いてしゃべり出したかと思うと、すぐに話を終えて、透明な階段を登っていった。僕はそれを見送ると、地面にしゃがみこんだ。
地面に置いておいた宝石を拾いあげてジッと見た。相変わらずキラキラしていて眩しい。
僕は立つと、ジョウロを持ってきた。
待っている間、水やりでもしていようと考えたのだ。
僕はもう完全に開きそうな花に水を与えた。全ての花の成長時間は同じで、大きさや開き具合も同じだった。
橙、青、黄色、紫、緑、黒、白はあったけど、やっぱり赤というのは、この宝石だけだった。
僕は水をやりおえると、ジョウロを片付けた。それにしても、義人遅いなぁ。そう思ったときだった。

オルゴールの音がなり響いた。カラカラのオルゴールの音だ。そして、やっぱり車椅子少女がいた。
しかし、僕は驚かなかった。記憶を取り戻したからだ。あの人が誰だか知っている。眠りから覚めた時に教えてもらったのだ。
「えーっと、たしか名前は、『やまざきみなみ』だっけ。」
車椅子の動きがピタッとやんだ。そしてその後にオルゴールの音がやんだ。
「あーらら。ばれちまったか。前の時は上手くいったのに。……まぁ、持っていけなかったけれど。」
キーンと響いた声が聞こえた。この声は恐らく、
「夏姫……だっけ?」
「おっ、せーかい。早速名前呼びとは気が利くねー。学級委員長なんて『志紀さん』だぜ。ほんとありえねーよな。」
車椅子の後ろから、夏姫が出てきた。
手に持っているコントローラを見る限り、車椅子は彼女が操っていたのだろう。
僕が何と言おうか迷っていると、夏姫はいきなり車椅子少女の顔をビシッと叩いた。そして耳元で鼓膜が破れそうなくらい大きな声で叫んだ。
「おーい、おきろー。弥波ー。」
車椅子少女は、大きな声だったけど、鼓膜は破れていないらしい。むにゃむにゃとと口を動かして半目を開けた。
「うーん……何ぃ?」
「もうばれたぞ。」
「マジか!」
弥波はさっきまで寝ていたのが嘘かのように、すごいスピードで飛び起きた。どうやら普通に歩けるらしい。車椅子から立ちあがると、僕のそばに歩いてきた。
「えーと、やまざきだっけ。」
「弥波の名字は「やまさき」ね!あと名字じゃなくてもいいから。
それにしてもマジすごい!いつから気づいてたん?よかったら一緒にゲーセンでも……」
ガシッと、その言葉をさえぎるかのように、弥波は背後から肩を捕まれた。
そこには、殺気にみちあふれた夏姫が立っていた。
「冗談だって!マジになんなよ!弥波は夏姫の邪魔になるようなことはしないって!ホントに!」
あわてて笑いながら言い訳する弥波に、夏姫はため息をついた。そしてゆっくりと手を離すと、静かに後ろの方へ行った。
「ごめん!うちのリーダーがお怒り中なんで、また今度!」
弥波は僕に小声で話すと、夏姫の方に戻っていった。
僕は透明な階段の先にあるドアの方をみた。義人たちはまだ来ないのだろうか。
僕がそう思ったとたん、まるでその意思を読んだかのようにドアがキィッと開いた。
「千草と姉御、こっちです。」
「へぇ、ここが『レムナー専用レム栽培所』ですか。」
「で、名がほしいというやつはどやつなのじゃ?われにはわからん。」
ドアの向こうから三人ほどの声が聞こえてきた。そして、ぞろぞろとこの部屋に入ってきた。
「おーい。姉御たちをつれてきたぞー。……て、なにっ!?弥波と姉御の妹までおるやないか!」
「なんですって!」
義人と銀色の人……たしか「ちあき」といったかな。その二人が、一気に階段を下ってきた。そして、僕と夏姫たちの結構空いた空間の間に体をはさんだ。
「絶対にこの人は渡しませんから。」
そういって千秋という人はキッと夏姫を睨み付けた。
「あたしも渡すつもりないんだけど。
てか、そもそもおまえのものじゃねーじゃん。それ、姉貴のだし。ジャンケンで公平に決めたでしょ。」
夏姫は相変わらず余裕ぶった表情で答えた。
二人の間には、見えない電気が通っているかのように、ピリピリしている。誰も入れないという雰囲気だ。
その間に一人入ろうとする強者がいた。義人だ。
「二人ともやめんか。つい最近までなかがよかったではないか。」
義人が割り込もうとするが、それは無視されてしまった。まるで二人の周りには迫力という名の結界がはられているみたいだ。
「それは春歌がいなかったからそうなっただけであって、春歌がいたら、負けていたかもしれないでしょう。」
「んなわけねーじゃん。そもそもあいつがいなかった方が悪いだろ。」
「仕方ないでしょう。私たちのための書類をまとめてくれていたのだから。
それとも、夏姫と真冬以外の人のものになってしまうのが怖いのですか?」
夏姫は少し笑顔を崩し、チッと舌打ちをしながら顔を少し斜め下に向けた。
しかし、眼球は千秋に向けたままで、その目は威嚇するような感じでとても鋭かった。しかしそれもすぐにやめた。
夏姫は大きなため息をひとつつくと、頭の上で腕をくんだ。表情は笑ってなく、普通の顔だった。
「そもそもあいつに過保護な脳電波かけすぎなんだよ。強い刺激を与えただけでその物質が消し飛ぶってどういうことだよ。」
夏姫がきっと睨みつけた。しかし、千秋はそれに怯むことなく言い返した。
「そういうあなたも彼に執着しているのでは?さっきも怯える顔見たさに、車椅子で登場させていたじゃないですか。
私に文句を言う前に、そのサディスティックな心をどうにかしなさい。」
夏姫と千秋は挨拶のひとつもかわさずに口喧嘩をしていた。しかし、今更挨拶しても意味は特にないだろう。
突然、ちょんちょん、と誰かが僕の肩を叩いた。見ると、義人の姉である千草だった。
「ちょいとおぬし。あの喧嘩の間に入って、とめてきてくれぬか?おぬしじゃと絶対に聞くから。」
千草は小声で僕に伝えると、軽くトンッと肩をおした。
僕はもう一度千草の方を見た。千草はうなずくと、「頑張れ!」と小声で応援してくれた。
僕はうなずくと、二人の間に入った。すると二人は驚いたかのように少しひきさがった。
「あの、喧嘩はやめない?」
僕は二人に話しかけた。それを期にと義人は言葉を重ねた。
「そうじゃ!喧嘩は辞めんか!やるなら暴力で解決せい!」
僕は義人の方を振り向いた。義人はわからないとでもいうように首をかしげた。
「なんじゃ?どうしたのじゃ?
……あぁ!わかったぞ!時流しされる前は暴力より口喧嘩のほうが駄目じゃった……じゃない!反対じゃ!口喧嘩より暴力のほうが駄目じゃったのじゃろう!
しかしここは何でも暴力で解決できるぞ!警察に見つかりさえしなければなぁ!
それに警察に怯えなくとも、正式な手配を取れれば、暴力で解決することができるのじゃ!」
義人はニコニコしながら話していたが、これはそういう表情で話すものではないと思う。
「警察のところへ暴力喧嘩の手配をしにいきましょう。」
……この世の人たちは、どうやらそれが普通らしい。
僕たち六人は、警察のところへと向かった。距離はさほどなく、すぐについてしまった。それとも僕にとって初めて見る場所だったから、そう思えてしまったのだろうか。
警察のところに着いたとき、まずびっくりしたのが広さだ。
体育館二個分くらいの大きさだった。理由は中に暴力喧嘩用のステージがあるかららしい。
次にびっくりしたのが、運営者の人の年齢の小ささだ。
見た目は中学生くらいだろうか。どうやら千秋たちの父の兄の娘……すなわちいとこらしい。そして年齢は春歌という人と同じだそうだ。
ちなみにこれは関係無いのだが、千秋と夏姫と真冬と春歌という人は姉妹で
、名字は「しき」というらしい。
年齢は上から順番に、真冬、千秋、春歌、夏姫だそうだ。なんとも不思議な話だ。
受付で手配用の紙をもらうと、千秋はその紙を机の上に広げた。そして鎖に繋いであるシャーペンを持つと、邪魔にならないように、髪を耳の後ろにかけた。
「名前は……志紀千秋っと。はい、もう片方書いてください。」
「はいはい。……志……紀……夏……姫っと。あと指紋のところがあっただろう。そこやったらあとはよろしくな。」
「そんな無責任な。……まぁ仕方ありませんか。」
なぜか声を出して書いていた。それはこの人たちの癖なのだろうか。それとも僕にどんなものか教えてくれているのだろうか。……いや、それはないだろう。
「ステージは……ランダム……、レムの使用は……可能……と。バトル形式は……2対2……でいいよな。
えーと、参加者は……私側は私と義……人……夏姫側は……夏……姫と弥波……っと。見学者は、千草……と、誰だっけ?まぁいいや。黒い人っと。」
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