そんな恋もありですか？
「ああっすみません」

「ドジ」

あゆは、
オーブンの火加減を間違えて、
こがしてしまった

「新しいパンケーキ焼くのにあと１０分かかるのに」

「かして俺がやるから」


シェフの守田は
オーブンから出したての
焦げ目がキツクついてしまったパンケーキを
型からパカパカ外すと
卵液にくぐらせさっきの高めの温度設定のオーブンに。


あまりに流れるような行動に、
まるで初めからそれがあたりまえのように思えた。

「あの、それは？」

「何ぼんやり突っ立ってんだ、
　お客様に、もう少し時間がかかると伝えてこい」

「は、はい」

「ったく使えねえ。」

（だって、私は素人なんだもん、
オーブンなんて人生で初めてっていうくらいで、
まして業務用オーブンなんて上手く使いこなせないよ）

あゆは半分涙目になりながら、
ホールに行って、
パンケーキのオーダーされたお客様に事情を説明し謝罪する。
もちろん怒鳴られることは覚悟で。

すみません、すみませんと
客に嫌みを言われながら、
ひたすら頭を下げるのは、
平井あゆ、２７歳。

大手出版社に勤めるＯＬ。


なぜ、あゆがこんな畑違いな場所にいるかと言うと、
人気カフェのレシピ特集ムックを編纂するに当たり、
記者の体験記事を載せると言うことになり、
白羽の矢が当たったのだ。

『私も体験なんかして楽しくクッキング教室♪』

みたいな軽い気持ちで引き受けたが、
それは甘かった。


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