て・そ・ら
1、あの空は、茜色
・始まりは衝突から
ドン!という音と共に、結構な衝撃で体が吹っ飛んだ。
うわあ~、という叫び声は口の中で消えてしまう。
だって、強烈に驚いていたのだ。
驚くことに精一杯で、痛みとか空中飛行については考えが追いつかなかったってわけ。
だけどほどほどの体重があるあたしの体は一瞬だけ空中を飛び、重力に従って、そのまま冷たい学校の廊下へと落ちて滑った。
「いたっ・・・た・・・」
向こう側から声が聞こえた。
どうやら、曲がり角で誰かにぶつかったらしい、と気がついた。・・・いや、違う違う。気がついたどころかしっかりと覚えている。
数秒前、あたしは曲がり角をダッシュで回り込もうとして、運悪く歩いてきていた男子生徒に衝突した。問題はそこじゃあない。
問題は―――――――――ぶつかったところが、頭や胸や腕なんかじゃなく、顔、もうちょっと詳しく言えば、口元だったってことなのだ。
だって、両手一杯のプリント。それを抱き締めて突っ走っていたら、顔から突っ込んでしまったようだった。
しかも、相手もほぼ同じ位置だったと推測する。
きゃー。
何てことだ!あたし、今確実に、唇を相手にぶつけてしまったっすよね!??
こ、これはハプニングキスってやつなのでは!?
もつれる足をなんとか回収して、痛む口元を片手で押さえながら、吹っ飛んだ拍子にばら撒いてしまったプリントの海の中、あたしはそろそろと顔を上げる。
それから、呟いた。
「げ」
「・・・うおっ・・・おえ~・・・」
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