て・そ・ら


 冬で晴れている時は、すごく寒いって決まっているらしい。

「さっぶうううううううううううい!!」

 もう濁音つけて言っちゃうぞ。

 何この寒さ!そう思いながら、あたしは夕焼けに会いに屋上に上ったのだ。その日の放課後、いつものように。

 今日は昼間も雲ひとつなかったから、きっと久しぶりで強烈な真正面からの夕日が見れるはず。そうしたら覚えておいてまた絵に描こうかな、そう思った。

 来年の作品展では夕日を出す。そのために今あたしの記憶に焼き付けておかなくちゃ、って。どんな光や色なのか。線のぼやけ具合はどんな感じなのか。

 だーけーど、夕焼けの前に、これ。

 ポケットの中にいれたカイロを握り締めて、あたしはそーっと東よりのフェンスに近寄った。ここからだと中庭で練習する男子テニス部が見えるのだ。声も少しなら届く。だからお気に入りの場所。

「・・・あれ?」

 そーっと覗き込んでから、あたしはガバッとフェンスに近づく。・・・あれ?あれれれ?いないじゃん、男テニ。

 え?今日は中庭の日じゃなかったっけ?あたしは学校の外周に設置されているほうのテニスコートを見ようとして目をこらす。

 だけどそこにも動いている人影はなかった。

 えー・・・。今日部活なかったのかなあ・・・。

 その割には、いつものようにさっさと教室を出てしまっていたけど。横内。誰よりも早いんだよね、教室出るの。

 ガックリ。あたしは悲しく唇を尖らせて、仕方なしにフェンスに寄りかかる。

 夕日が出てくるまでのお楽しみ時間だったのに。見れなかったな、練習・・・。


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